BIOCHAR

静岡県浜松市
 静岡・佐鳴湖畔の森に建つこの住宅では、地域で廃棄されていたみかんの枝木を再利用し、炭化させたバイオ炭(Biochar)を主要素材として壁面に使っている。バイオ炭は土壌改良や水質浄化に高い機能を持つとされ、ここでは単なる素材ではなく、環境と建築を媒介する思考体として扱われている。建築が環境を享受するだけでなく、いかに環境へ還元できるかが、この建築の思想的核心である。高床によって地面からわずかに浮かされ、土壌の呼吸や雨水の浸透を受容するように計画されている。その空隙は、土地の湿度や温度の変化を受け止め、土を手がかりにした環境の存在を感覚的に意識させる。アメリカのランドスケープ・アーキテクト、ジョン・T・ライルは、著書”Regenerative Design for Sustainable Development”, 1994で、サステナビリティ=持続可能性は目的ではなく出発点であり、自然のプロセスを参照しながら環境を再生することこそが建築の本質的課題であると述べた。この住宅はまさにその思想の先にあり、佐鳴湖畔の森の際で、建築が生態系の一要素として環境と共に存在し、建築が環境を変化させ、新たな資源の循環を生み出そうとしている。それは、まさに「リジェネラティブ(地域資源再生)」な建築思想の実践といえる。建築は環境に内在しながらも、環境を包在するものとして、自然の循環に再び参加している。建築が環境へ開こうとするその思考が、どのようにライフスタイルへ接続されていくのか。この住宅がリジェネラティブな建築として在り続けるための本質は、その関係の結び方に委ねられているのではないだろうか。 (金子 尚志)  設計者の素材選びや環境との共生に向けたその土地への深い考察から建築に向けられた思いをどこまで、クライアント(住み手)が共有でき、自身たちの生活スタイルとして欠かせない必要な環境づくりになっているか、設計者との距離感や親密さから伺い知ることができたように感じた。地域のバイオマス(木質資源)に着目して、開発されたバイオ炭=BIOCHARを象嵌するように大判のブロックタイルの建材にして、炭素固定を図りながら、室内では調湿や空気質の浄化、屋外では、水の循環と合わせた濾過機能で、隣接する佐鳴湖の水質浄化に寄与させるという壮大なスケールのプロジェクトは、時代の要請にも応える実直で真面目な取り組みとしてその意義を評価したい。呼吸器アレルギーに悩む家族への効用にも一役買って、住まいが担う機能としてもうまく合致できたことが喜ばれている。
 自由奔放で無垢な子どもを抱える裕福な家庭から求められたのは、ただの豪華さではなく、上質な空間そのものが、もっとそれぞれの日々の生活を楽しましてくれるような極・極シンプルなコンセプトで表現された建築に結実された。
 バイオ炭のその効能、視覚的、触覚的な素材のテクスチャを十分に活かしたとする建築的な手法としては高価で、誰もが簡単に手を出せるものではないかもしれないが、今の時代に必要な設計アプローチとして、設計者が唱えようとしている計画理念は、大海への一滴(ひとしずく)であっても、確実に世界を変化させる価値ある一滴になると信じたい。 (山本 和典)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
鉄骨造
階  数 地上2階
敷地面積
595.99 ㎡
建築面積
237.01 ㎡
延床面積
338.72 ㎡
設計者 株式会社ASEI建築設計事務所
施工者 株式会社加納工務店

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