文殊の家

岐阜県本巣市
 構造設計者による自邸と仕事場(離れ)の計画。地盤速度増幅率と地価の関係、発災現象を目視確認できる現しのディテール、風圧係数と窓の位置の関係、離れと母屋の対照実験的な位置づけ、子どもにとっての教育的視点、自宅の防災拠点化、など、構造設計者ならではのエビデンスに基づいた数々の設計根拠は、意匠設計側からはまったく異なる論理で組み上げられたものとして立ち現れているように見えて大変新鮮であった。また各制度に対する批評精神と自邸に対する深い愛情が溢れ出る解説には情熱を超えた使命感も感じられ、建築文化の裾野の広さ、積み上げられた高い専門性に対しても改めて設計の奥深さを感じることとなった。しかし一方で意匠設計の範囲では不明瞭な部分もあり、社会課題に対する視点の鋭さとのギャップが浮き彫りになる場面も見受けられた。今日的な住宅の考え方として家族が安心して暮らせることがなによりも最優先される、そのことが建築賞の俎上に乗るとき、作品として広く関心を惹く部分も必要なはずである。自邸であるということが自己完結してしまうと、真に社会課題についての問題意識が広く共有されることになるだろうか、という本作を超えたところにある大変難しい問題が横たわっている。 (西澤 徹夫)  この計画の最大の特徴は、建築基準法の枠を超えた独自の設計クライテリアを設定し、多角的かつ実証的な検証を行った点にある。目標は、単なる「命を守る」耐震性ではなく、「地震発災後の生活継続性」の確保である。設計者は、許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算に加え、ばらつき解析や時刻歴応答解析などを駆使し、「本当に必要な耐震性」の可視化を試みた。特に、大地震時の層間変形角を1/60以内に抑えることを目標とし、発災後の生活維持に支障をきたさない高水準を追求している。
 敷地は濃尾地震の震源から20km圏内にあり、設計者は地盤増幅率の考慮が耐震設計に不可欠であると指摘する。現行法では地盤特性が十分に反映されておらず、その是正を意図した試みである。
 これらの思想を検証するため、母屋とは別に一般的な設計法による平屋の「離れ」を併設した。離れは簡易計算に基づき、母屋の性能を測る「ものさし」として位置づけられている。地震時には両者の損傷差異を検証し、その成果を社会に発信することで、構造設計の本質を問おうとしている。母屋は自治体の避難所を上回る耐震性を有し、薪ストーブによる暖房も可能で、地域の避難拠点としての開放も視野にあるという。
 敷地は堀に接し、周囲に塀を設けずおおらかに開かれた、豊かな景観の中に佇む。内部は、構造体が露わしとなっており、これは発災後の損傷調査を容易にするためであると同時に、空間に彫りの印象を作り、収納や掲示のガイドともなっている。空間の高さや幅は構造面から決定された部分が多く、心地よい場とやや不安定に感ずる場が混在する印象を受けた。
 「文殊の家」は、構造設計者の自邸であり、その信念と生活を融合し、現代木造住宅の新たな方向性を提示する試みである。 (生田 京子)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
583.3㎡
建築面積
138.23㎡
延床面積
172.57㎡
設計者 株式会社GA設計事務所
施工者 株式会社松久建築
有限会社リビングデザイン

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