東横山水力発電所

岐阜県揖斐郡揖斐川町東横山下平126
 100年以上の歴史を持つ民間企業の施設がその判断で耐震改修によって存続を決定したことの意義は大きい。そのうえで国道303号からの審美的な意味においての立面を可能な限り保存するということは、それがプログラムの変更や増改築を伴わないという点においてアリバイが通用しないために大変困難なはずである。それを最小限のH鋼と背後のバットレスの追加でクリアし、なおかつ発電所機能を停止しないで施工を行った計画は、今後の歴史遺産の保存という今日的課題に対しての良き事例をなるであろう。また本件の場合、既存建物と造形的にも要素的にも全く無関係な背面・北西側の巨大なコンクリートバットレスを追加することは大きな判断であったはずだが、導水管を固定するコンクリートのマッスと向き合う姿に案外違和感がなく、急斜面の土木的なスケールと華奢な本館とをうまく繋いでいるように見える。ただ、会議室や管理室のやや安普請なつくりであるところは気になる。大義名分の重要さがあればなおさら、見学ルートにもなりうる新設の場所こそ、既存建築の流儀をうまく引き継げなかっただろうか、という思いがどうしても過る。もうひとつ、ぜひ3階特高室は活用の方法は考えてもらいたい。現代建築にはないスケールと歴史の染み込んだ素晴らしい内観で、さまざまな使い方をしたくなるような空間である。歴史建築にはどうあがいても現代建築が勝てない質があるということを一般の見学者が気づく契機となることを期待して。 (西澤 徹夫)  新築という容易な選択肢がある中で、本施設を改修し活用することを選んだ企業の理念が、深く称賛されるべきである。100年以上にわたり電力供給を担い、近現代産業の発展に寄与してきた歴史的建築物を文化的遺産として後世に伝えるという姿勢が素晴らしい。一方で、これだけの建物が残されたため、今後は一般市民へと開かれた学習や体験を行う場として、公開とそれに向けた方策や空間の更なる再構成が望まれる。少なくとも近接する道の駅との視覚的連動を検討するなど、歴史を伝えていくための努力の余地はまだありそうだ。
 改修工事は、レンガ造の靭性に乏しい構造的課題と、発電を停止できないという厳しい制約のもとで実施された。耐震診断にはRC基準ではなく、煉瓦造に特化した規準が適用されたが、補強は特に国道303号からの眺めを損なわないよう、RCバットレスは景観に影響の少ない北西面のみに集約配置され、南東面は最小限の鉄骨とアラミドロッドによる目地補強で対応された。
 また土木構築物である地下導水管付近の強靭なコンクリートの上に、蓋を被せるような形で建築としての上屋を別物として耐震補強する考え方に特徴があり、技術的にも参照しうる事例がない中での模索であった。北西のバットレスの設置は、図面審査の際には過大ではないかと懸念されたが、実際に現地確認したところ地下に続く導水管の経路とそれに伴う土木的構築物と共存することにより、その存在に違和感がなく現地に適合していた。
 この複雑で高度な設計を、歴史的な美観を維持しながら実現させた施工会社の技術力と粘り強さは評価に値する。改修後、施設は発電施設としてのBCP(事業継続計画)が強化された。
 長くに渡り、水力発電という持続可能なエネルギー生産に貢献してきた施設を再生し、実用とともに歴史的価値を将来へと継承せんとする取り組みが評価された。 (生田 京子)
主要用途 水力発電所
構  造
レンガ造
階  数 地上3階 地下2階
敷地面積
不明
建築面積
約830㎡
延床面積
約1,855㎡
建築主 イビデン株式会社
設計者 株式会社熊谷組中部一級建築士事務所
施工者 株式会社熊谷組名古屋支店

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