氷見の住宅

富山県氷見市
 接道条件を満たさない隣地を買取り、既存敷地との合筆・分筆をして建設可能な土地をつくり、そこにシェアハウスとオフィスを組み合わせたプログラムを増築するという計画。将来的には奥に広がる古い長屋が残る路地へつながる通路にもしたいというから、一種のミニ開発というか都市計画というべきか。施主はまちづくりにも意欲をもっており、ゲストハウスのキッチンは地域の会合にも使われているという。そうした意味では、まちづくりの拠点でもあるようだ。いろいろな意味で意欲的な計画である。
 オフィスから土間、ダイニングキッチンまでの空間はまちとのつながりや、適切なスケール感が居心地の良さを作り出していた。
内部のディテールは作り付け家具や建具は大工の手間を惜しまずつくっただけあって建築との一体感があり、さまざまな行為を喚起するものとなっている。
 外観を特徴づけるのは、板庇と設計者がよぶ庇だろう。住宅というよりは、店舗のテント庇のようなボリュームをもつものであるが、この存在によって本計画がめざす公共的な様子がさりげなく宣言されているように感じた。魅力的な要素ではあったが、もう少し出寸法を広げて、雨を避けるという庇としての基本的な機能を向上させてもよいのかもしれない。
(乾 久美子)
 氷見では明治15年と昭和13年に大火が起こり、市街地が改造されている。この場所は氷見の大火から類焼を免れた地域であり、また大きな更新からも取り残され、路地奥には古い時代の町家の面影が残されているところである。
 このような場所における本プロジェクトは、狭小宅地、接道しない建築不可宅地を、建築可能にし、場所の将来像も視野に入れた一つのまちづくりとしても評価したい。
 本プロジェクトは、新築の事務所併用住宅であるが、住宅部分はシェアハウスへ、事務所部分は地域の図書室やポップアップショップなどへと用途が変化していくことを想定している。
 本敷地の場所は、市のいきいき元気館から見通す軸の先に位置しており、このタテの軸のほぼ中間にある通学路としてのヨコの軸と合わせて十字の軸をつくり、この場所に意味を持たせている。さらに元気館の土色の壁と本件の銀色の壁が、相見通せる位置において呼応する演出がなされている。
 建築の構造は、木造在来軸組み工法。断熱は外断熱工法としている。これにより構造材を現わしにして、構造体を見せることで、棚を差し込みによって取り付けるなど、自由な使い方を促している。
 玄関先に付けられた、伝統的に存在する板庇を踏襲すると思われる急勾配の付け庇は、切妻屋根の水平方向の勾配と庇の垂直方向の勾配を同一にして、形の連続性が感じられるものの、出が短いため庇としての機能を有していない。機能がないものを新たな記号としてとらえられるかどうかは疑問が残るところである。
(塩見 寛)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造在来工法
階  数 地上2階
敷地面積
220.46㎡
建築面積
47.92㎡
延床面積
95.84㎡
設計者 モ・トstudio+坂東幸輔建築設計事務所
+東工業一級建築士事務所
施工者 東工業株式会社

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