不惑の一棟

愛知県豊川市
 環境の時代において、伝統技術が残り続けるために建築に何ができるのだろうか。不惑の一棟は、2022 年に国の登録有形⽂化財に指定された主屋に対する新家として建設された。東は庭へ、南と西は道から街への調和が重視された配置で、将来、建築主が主屋の維持管理で移り住む事も考慮されているようである。東の庭に干渉しない限られたスペースなどを考慮すると、配置と規模の制約を受けるため、住まいとしてはやや小さな空間となっているが、このスケール感が程よく、建築の密度感として建ち現れている。また、新屋と主屋が同敷地ですごす様子は、2世帯の適度な距離を作るとともに、伝統技術による深軒によってそれぞれの生活をつないでいる。職人技術が惜しまず表現されているなかで、現代的な部材としてのアルミサッシの存在は少々異質に感じられた。
 伝統技術は、ひとつの建築、設計者、施工者、施主だけで存在するのではなく、持続可能な地域のネットワークとともに残っていくのではないだろうか。この住宅においても、伝統技術が地域のネットワークによって構築されている様子を強く感じた。そして、伝統技術を未来へとつないでいくには、建築としての実践が必要である。この住宅はその好例として相応しい一棟である。10年後、この建築が天命を知る・伝える一棟として、建築と技術を未来へつなぐ建築となっていることを願う。
(金子 尚志)
 伊奈街道沿いに建つ登録有形文化財(江戸時代農家)の主屋を持つ離れの増築計画である。
 この離れは長い時を経てきた主屋に寄り添い、伝統技術を現代の住宅に活かし進化させ、環境への配慮、長期維持、精神的な快適さと調和を目指した。主屋に接する既存の庭はそのままにし、限られたエリアでの計画であるため小規模ではあるが、東側道路からみる様は軒が深く、切妻屋根の妻面を大きく見せることで、それを感じさせない。主屋と離れは二世帯として適度な距離を保ち、行き来は離れの軒を深くすることで対応しており、離れは水回り機能、リビング的な役割を補完している。長い時を経てきた主屋と同様に長く住まうことのできる住宅として、伝統技術や普遍的なデザイン、自然素材の材料を採用している。
 外壁は塗壁と木製縦格子を採用しており、木製縦格子はメンテナンスを考慮し鋼板張りの上にパネル形式で取り付けられ、取り換えを容易にしている。軸組みは意匠として見せ、大学における接合部破壊実験から得られたデータに基づき仕口形状、栓などの検証と改良を経て、独自の差し組を実現している。また深い軒の出は、社寺建築で用いられる桔木構造とし、軒の加重を支え軽快な意匠を織りなしている。
 内部では格天をアレンジした六式格天縦桟組みと呼ぶ天井組や欅柱の洞(樹洞)への寄木細工の埋め木、内外部の土塗り壁、土間の三和土など伝統技術を継承すべく使用している。奥三河の木材や西三河の幡豆石を利用するなど地産地消も積極的に進めている。
 クライアントの深い理解と共に、積極的な伝統技術の継承及び進化、地産地消を評価し、さらなる木構造への探求を期待するものである。
(筒井 裕子)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造軸組工法
階  数 地上1階
敷地面積
1,786.72㎡
建築面積
83.29㎡
延床面積
65.52㎡
設計者 望月建築設計室
施工者 株式会社望月工務店

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