Toyota Technical Center Shimoyama
愛知県豊田市下山田代町松ケ田和2-2 |
650haの広大な人工林の敷地内に建つ企業の環境学習施設である。企業は長期にわたる継続的な間伐計画をたて、広大な敷地の森林環境保全に取り組んでいる。この施設は林業従事者の減少もあり、1シーズンで採取できる間伐量から建物規模を決定し、敷地内で伐採された間伐材を有効利用した建築である。谷津田を臨む位置に配され、現地に残る里山の自然環境を活かした環境学習のための施設であり、自然との共生を学ぶ場となっている。 谷津田への眺めや通風を考慮し、大きくずらして配置した大空間の実習室と多目的室で構成されており、二棟の軒深い切妻屋根とそれらを結ぶ開放された屋外作業場の切妻屋根が里山の景観に馴染んでいる。森林環境整備から発生する間伐材の丸太から製材した芯材を使い、部材同士が互いに支持し合い立体的なバランスを保つレシプロカル構造の「細く・短い」を構造架構として活かし、空間デザインに展開し、無柱の大空間を実現しており、環境学習に活かされる空間づくりにもなっている。 間伐材を角材、板材、チップ材にして構造材、仕上材として余すところなく使い切っている。また集成材や接着剤を使用せず、間伐材の製材工程を近域で完結できるようにするなど環境配慮を実践している。間伐材の価値を引き上げ、持続可能な利用に繋がることへの挑戦を行った。 里山環境の保全活動、地域交流の場として活用、環境への配慮、間伐材利用の可能性を広げたプロジェクトを評価するものである。 (筒井 裕子) |
こんな山の中に施設があるのかといぶかるほどの山道を登り峠を超えると黒を基調とした切り妻屋根が見えてきた。三つに分節された屋根は山並に呼応するように見える。それはこの敷地条件を丹念によみとり深く検討された中で生まれたものかと思われる。 この建物は山の中に残されたタイムスリップしたかのような棚田と里山などの自然を体験学習するために整備された施設である。 この施設の主要空間である二つの大空間は間伐材を組み合わせて作られた立体トラスの天井が美しい。里山の間伐で切り出される材は細く主体構造には使いにくいが組み合わせることで太い単材にはない変化を生み出している。間伐材の利用は山の維持に欠かせないテーマだがこのような利用方法は一つの解になるかもしれない。 里山は今の若い人たちや子供たちにとって異世界である。こういう里山体験のできる場所が生まれたのは素晴らしいことである。ここでは建築は控えめで出すぎないのが望ましい。その意味でこの建築はその要請に巧みにこたえているように見える。軒を低く抑えることで広さのわりにヒューマンなスケールに収まっている。また大きな屋根のかかった外部空間が内外の連続感を生み出している。この場所で楽しく走り回る家族の姿が目に浮かぶ。 伝統を踏まえながら伝統民家とは一味違う意欲的な意匠性、間伐材を分解加工した新しい仕上げ材に挑戦するなど細部にも工夫を凝らした建築からは設計者の思いが伝わってくる。里山を提供したクライアント。そこに単なる休憩施設を超えた空間を提案した設計者、その期待に応えた施工者。みんなの思いが凝縮して生まれたこの里山施設はきっと子供たちの貴重な体験空間になるに違いない。市民に広く利用されて行くことを願ってやまない。 (藤𠮷 洋司) |
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