小諸蒸留所長野県小諸市甲4630-1 |
建築はどこに建つかによって、その様相が変わる。ウイスキーの製造所とビジターセンターの機能を持つ小諸蒸留所は、浅間山の麓、耕作放棄地だった緩やかな斜面に静かに建っている。この場所は、設計者が施主と一緒に敷地探しから始めて決定したという。敷地には、多様なその地域の特徴が潜在している。建築はさまざまな環境要素と、それらの循環によって重層され、結節点となって空間・建築として建ち現れる。そのように考えると、小諸蒸留所は建築だけでなく、造られるウイスキーも結節点としての姿である。この蒸留所で造られるウイスキーが、地域の資源・素材の価値を尊重して製造されているように、建築においても、素材が丁寧に検討・配慮されながら選定・デザインされていることを伺い知ることができる。西側の長大なガラス面は熱的な性能面で気になるものの、大スパンを可能にしている鉄骨の梁や、エントランスにつながる階段の素材と各所のディテールが空間構成へと昇華し、小諸の集落と蒸留空間双方へ接続することで、他にはない製造所とビジターセンターの空間を創っている。 ジャパニーズウイスキーと名乗れるものは、日本国内で糖化・発酵・蒸留を行い、日本国内で木製樽に詰めて3年以上熟成させたものと規定されているそうである。この場所で、この建築で製造されたものが広く製品として世界に運ばれていくのは少し先になるが、建築も環境によって熟成されていく様子を楽しむことができるのではないだろうか。 (金子 尚志) |
浅間山の麓に建つビジターセンターを併設したウイスキーの蒸留所である。 ウイスキーづくりには「水」が最も重要であるといわれる。最高の水源を求めて土地探しからスタートし、設計者は当初から関わり続けて3年かけて、浅間山の恵みを受けた地下水と土が存在する最高の土地を探し当てたという。 蒸留所にはバーを備えたビジターセンターと、ウイスキーを学ぶアカデミーが併設されている。 ビジターセンターは16m×16mの無柱空間が実現している。25mm×600mmのボックス梁とH型梁を細く見える柱で支持するという大空間である。蒸留室を、そこで働く職人さんを眺めながらウイスキーが試飲できるという最高の時間と空間が提供されている。 その天井をよく見ると、わずかに勾配が生じている。1/20というその勾配は、元々の地形が1/20だったことから、地形の記憶を新しい空間につなげたものだという。ウイスキーづくりのための理想の水と土地を求めて探し当てた記憶を空間にとどめておきたいという設計者の意思であろうか。土地との対話から生まれたデザインであるといえる。 設計者は土地探しというゼロからの出発から関わり続けてきた。何が重要か、何が求められるかをクライアントの意向と会話、土地との対話を繰り返し、設計コンセプトを煮詰めることができたといえる。その持続性ある設計態度と設計姿勢に賞賛を送りたい。 (塩見 寛) |
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