MARUWA瀬戸工場愛知県瀬戸市幡中町162他 |
愛知県瀬戸市は、長い陶磁器生産の歴史を持ち、「瀬戸物」は陶磁器の通称としてよく知られている。その過程で多くの陶土採掘場が形成され、これらの採掘跡地は、環境への影響や景観の変化をもたらし、いわゆる「ブラウンフィールド」としての課題が顕在化している。 MARUWA瀬戸工場は、これらの跡地修復と再利用に向けた取り組みでもあり、人と自然、地域と世界をつなぐ新たな創造の拠点として計画された。大きな窪地を形成する敷地に対し、高低差を利用して3階部分からアプローチする建築は、地形の力に呼応するようなスケールの庇で迎えてくれる。この庇は建築の長手方向へ連続しながら中間で折れ、周辺環境と遠景を掴む装置としても機能している。このダイナミックなデザインは、繊細なディテールと綿密な構造計画が可能にしていることは想像に難くない。また、ロビーに対して直行方向に接続する工場は、計画的に分棟で構成され、ロビーが相互の工場を行き来する動線にもなっている。適切に配置されたインドアグリーンによって緩やかに分けられたロビーと工場の動線によって、人のアクティビティを認識するとともに、窪地に計画されたランドスケープを感じることを可能にしている。 工場とオフィスであることから、地域への開放は難しい点もあるが、この再生されたランドスケープ空間が地域のコモンズとして機能することで、「ブラウンフィールド」の転換の意義を広く伝え、大きな価値と未来を造るのではないだろうか。 |
瀬戸市が、長年構想してきた南部の丘陵地に産業技術の集積地となる「デジタルリサーチパーク構想」のセンターエリアに隣接する地に計画されたのが、エレクトロニクス・産業用セラミックスや電子部品の開発・製造・販売を行うMARUWAの最先端セラミック工場とオフィスである。製造拠点と同時に、世界から顧客を向かえる企業のゲストハウスの役割を持つ建物になる。 地場産業のために自然が崩され、採掘場のくぼ地であった計画地は、緑の再生と土地の防災計画を推進するため、雨水や土砂の流出抑制、調整池機能を反映させる人工的なランドスケープデザインの手法で整備された。雨水排水の機能が大地に刻むようにデザインされて、当地の降雨量に応じた水位の変化が「水の景観」になって表出する。そこでの建築は、くぼ地にかかる「橋」のような、または「海洋を見渡す大きな旅客船の多層デッキ」のような趣で、水平方向に伸びるオフィスが大地を支配しているように映り、壮麗さを強調してMARUWAの抒情詩的な空間になっている印象を受けた。 オフィス空間は、全面ガラス張りで、3層の吹抜け空間(アトリウム)の周りに、ほとんど区画されることなく、連続的に空間がつながって、どこからでも前面の景観が楽しめるようになっている。200名の従業員が3交代で稼働する条件で、福利厚生空間である食堂や休憩室の規模が設定されている。製造工程の途中に、本来は作業通路として表には出てこないはずの動線が、ハレの「ランウェイ空間」となって顔を出すことで、身が引き締まる演出空間が、設計者の計らいで実現されているのも粋である。 現在は、防犯のため企業関連の来客しか利用できないが、瀬戸市民に対して、開放日を設けるプログラムを検討中とのこと。かつて産業廃棄物の投棄地として環境汚染が拡がっていた地が、緑の再生によって地域に親しまれ魅力ある場所となる使命を担って始動した。当エリアの発展・拡張にMARUWAがどのように寄与していくか、注目されるプロジェクトである。 |
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(金子 尚志) | (山本 和典) | |||||||||||||||||||
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