浜松いわた信用金庫本部・本店静岡県浜松市中央区元城町114-1他 |
長きにわたり地域の発展を支えた信用金庫の新築プロジェクトである。敷地は旧浜松城下三の丸に位置し、西側道路を挟んで浜松城が臨め、2敷地に建つ10階建て本部棟と4階建て本店棟を渡り廊下が繋いでいる。 天竜美林の木立をイメージした本部棟高層部は、外装のテラコッタルーバーが特徴的である。テラコッタの90mm角縦ルーバー三本を一組とすることで外壁に厚みを持たせながら角度調整を行い、コーナー部の連続性や面外方向の孕みを抑制してシンプルで繊細な印象を与えている。テラコッタルーバーは自然風がオフィス中央まで届くように卓越風を制御し、日射や光害、視線の制御の役目も果たしている。低層部は浜松城石垣に呼応させようとテラコッタタイル張りとし、素朴で恒久的な質感が2棟の一体感をつくり出している。 2棟を繋ぐ渡り廊下は浜松城への軸線上となるため、控えめなデザインとされている。 内部は入れ子形式のオフィスで、ペリメーター部分を多様性のある空間としている。構造は主体架構を適正スパンとすることで梁成を抑え、エンボディカーボンを削減しており、それによって生じたペリメーター部分の負荷処理を抑えて省エネルギー化を図るなど建築・設備計画の両面で「ムラ」を積極的につくることで、やりすぎない「自然体オフィス」を実現している。内装は地場産のFSC認証木材をはじめ多くの木材を仕上げ材として使用しており、カーボンニュートラルの観点からも配慮されている。 健康に働くための工夫、多様な省エネ技術の採用、SDGsの取り組みを評価するものである。 |
銀行本店に新しい趣向を凝らした建築が生まれた。一般的なガラスカーテンウォールのビルとは一味違う。外壁を包む縦のルーバーは焼き物を用いているので近づくと焼き物ならではの質感が伝わってくる。 主体構造から外壁面がオーバーハングされていることでビルの外観やペリメーターゾーンに斬新な空間が生まれた。映像ではなかなか伝わらないが実際に内部に入ると心地よいゆたかな空間が広がっている。柱が外壁面にないことで生ずるデメリットが逆に内部空間に変化を生んでいるともいえる。構造的にも無理に大スパンにしなくて済むメリットがある。 外観を構成するテラコッタルーバー、インテリアに多用された木材など素材の使われ方も巧みで完成度の高い建築に仕上がっている。 執務空間は壁が取り払われ従来とはがらりと変わったが働く人たちには喜ばれている。大空間をパーティションで区切って使うという従来のスタイルはペーパーレスになって必要ではなくなった。今まで個室になれた人たちもこのオープンな空間にうまく溶け込んでいるという。 オープンでコミュニケーションしやすい環境が働く意欲を高めているように感じられる。適度に配された可動棚や柱が丸見えになるのを和らげているなど細部に至るまできめ細かい配慮もある。 またこういう空間にすることを理解をした建築主の英断が素晴らしい。100年先を見越した建築を求められた設計者はその要望にふさわしい提案を示した。さらにむつかしい設計内容に見事にこたえた工事関係者。これはクライアントと設計者、工事施工者の協力と理解があって初めてできたもので中部建築賞の趣旨にふさわしい建築と感じられる。 浜松城に面した立地を生かし新しい街の顔が加わった。この建築は浜松市の顔の一つとして長く市民に受け継がれていくに違いない。 |
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(筒井 裕子) | (藤𠮷 洋司) | |||||||||||||||||||
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