小牧市立小牧南小学校愛知県小牧市大若草町82 |
既存の敷地内建て替えであることから、制限の厳しい中での計画のため、普通教室棟と特別教室棟が南北に平行配置されている。その典型的な様子とは対象的に、南棟と北棟の間に「小牧山ステップ」と呼ばれる豊かな移動空間が内包されている。ここの1階は間仕切のないオープンな図書エリアで、見通しの良い低書架とすることでどこからでも入りやすく、子どもたちの自由な活動の場となっている。階段の手摺りは建設現場においてモックアップにて詳細に検証されたという。エキスパンドメタルに塗装された手摺りが様々な方向に面を構成している。トップライトから差し込む自然光がエキパンドメタルによって透過光・反射光に変換され、階段を上り下りする子どもたちのシルエットの濃淡をより強調し、この空間の豊かさを一層際立たせている。また、天井の木材は地域材の活用だけでなく音環境にも効果を発揮している。子どもたちがこの空間を見事に使い熟している様子から、建築のポテンシャルを顕在化するのはやはり使う人であることを再認識させられた。 建築家ピーター・ズントーには、自身が設計した建築作品に時計を設置することを拒んだという逸話がある。それは、空間を一般的な基準時間で縛るのではなく、個々の時間として価値を持たせようとする意図によるものだろう。一方で、小牧山ステップの空間には、後から設置されたと思われる複数の時計が見受けられる。小学校という時間割に従って過ごす場であっても、チャイムが鳴るまでは時間に縛られずに過ごすという選択肢も、ひとつの豊かな体験として考えられるのではないだろうか。 (金子 尚志) |
現地建て替えによる土地利用上の制約を受けながら、学びの中心となる2つの教室棟の真ん中に立体構成の図書室機能を配置して、子どもたちが思い思いに本と向きあえ、知識の源泉になる愉しい「図書・階段教室」の空間が出来上がった。ステップワークスペース(SWS)と命名され、採光や温熱環境も配慮されて、学校の中で一番快適な空間になっているかもしれない。 運動しない人でも、他人の運動を眺めるだけで、脳にミラーニューロン効果が働き、運動刺激を得られるように、本に親しむ風景が視覚的に共有されて、子どもたちに「読む文化」が、自然に作用する仕掛けになっていると感じた。設計の意図を汲んだ施工者側の奮闘がこの空間づくりの細部までに行き届いており、子どもたちへの安心・安全を強化していた。 このSWSと連続する屋外のテラスも学習支援の場となり、同時に子供たちが授業の合間にリフレッシュできる楽しい装備が組み込まれ、子どもたちの歓喜が上がっている。 日本の教育の在り方が話題になる背景に、「個性を伸ばす」という理念に対する実践プログラムや空間づくりがあるのに、現実の学校建築の施設整備の中では、優先される事項が他に多く介在して、関係者の思惑とは異なる体制に押し切られて、「学校のあるべき姿」が埋もれたまま、見過ごされてしまうことが多い。小牧南小学校では、設計や施工段階での多くのワークショップを通じて、子どもたちと対話しながら、環境づくりに必要な要素を探る地道なプロセスがとられていたことが、子どもたちにとって「記憶に残る学び舎」になるだけでなく、シティズンシップ教育としても意味のある取り組みにつながっていたのではないかと思われる。 普通教室での日常の中から子どもたちの個性を発見し伸ばす機会を逃さないために、単なる廊下ではない「ワークスペース」への課題や「学校のトイレ」改革など、潜在的な問題に対して、今後の取り組みとして学校教育関係者・設計者・施工者で、挑んで頂けることを願います。 (山本 和典) |
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