山手の家静岡県浜松市 |
それぞれに独立した機能と微妙に異なる粗から滑に至る表面テクスチャーが与えられた4つの直方体を、相互に並べて置き、同時に少しずつずらして、全体を組み立てている。この方法によって、それぞれに高さと広がり、そして外部と異なる関係性をもつ多様な場所が生み出され、しかも相互にきめ細かな繋がりが作られている。建築家の作る住宅の際立った特徴の一つに吹き抜けがあるが、日本の住宅の大きさを考えると、二層の吹き抜けは、空間の比率から見ると、評者は高すぎると感じている。 この作品では、この問題から解放されて、実に心地よく広さに応じて適切な高さを持った部屋が生まれている。そして直方体空間の狭間や小さい窓から、廊下を歩く人の脚が見えたり、人が集う居間の断片が見おろせたりする様は、二階分の吹き抜けを介した大雑把な繋げた方では全く実現できない空間の楽しみを与えてくれる。 この設計者は空間の扱い方の多くを、先達からしっかり受け継いでいることが窺える。とりわけアアルトや村野藤吾から多くを学んでいるように見受けられた。発注者家族がそれぞれこの住宅を気に入っている理由が納得できた。 (大野 秀敏) |
この建築が建つ住宅街区は比較的敷地が大きい区画が並ぶ。道路から駐車スペースの奥に、街のスケールに対して程よく調整された4つのヴォリュームの統合によって構成された住宅である。外壁はヴォリュームごとに表層のテクスチャーを変化させ、奥行き感を持たせている。地元の左官職人と共に新たなテクスチャーの開発を試みたという。最も荒いテクスチャーは、昭和初期に使われていた古典的な技法を再現している。地域の職人の技術を、建築として社会に残していくことは建築の重要な役割だろう。 内部空間においては5つの異なったレベルが連続的につながり、ヴォリュームの分節によって、開放感という種類の吹抜けではなく、適正に高さが計画された内部空間となっている。一方で断面のズレを活かした水平方向のスリットは、横方向への吹抜けとも言える独特な空間特性を備えている。ヴォリュームの凹凸によって作られた外部空間も空地として程よいスケールを持ち、住宅における「ヴォイド」とは何かを再考する機会を提示しているかのようである。 現代住宅の外皮性能が省エネへ貢献することは言うまでもなく、内部空間の構成を変えるための潜在性能を持ち、その可能性を広げる要素なのである。 (金子 尚志) |
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敷地は高台の住宅地にあり、敷地毎に造成した為か周囲の敷地の地盤面はそれぞれ異なる。そうした状況を踏襲するように、敷地内に4つの箱を配し、庭のレベルや各々の箱の中の床レベルに差を付けることで、空間を分節しながら繋げる操作を行っている。子供部屋や主寝室はプライバシーを優先させたためか完全に独立して設けられているが、2階の廊下や和室は、水平なスリットを介してリビングと繋がり、箱のズレを上手に表現していた。 また、地元の職人とコラボレーションして、箱の差異を左官の仕上げの粗さの度合いとして外観に表しており、その一部はインテリアにも及んでいる。また、家具の3辺トメ加工や、外壁に細いスリットを入れただけのように見える外壁の通気用吸い込み口など、設計者と職人、現場監督との協働により実現したであろうディテールも、シンプルな構成を際立たせている。若い設計者でありながら、見どころ満載の完成度の高い住宅であった。 (横山 天心) |
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