赤松の平屋愛知県安城市 |
休日の午前中に訪問したこの建築は、アトリエのように北からの朝の光に満たされ健康的で、実に新鮮な空間でした。 そして、各室の天井が省略され、全体が一つの家族のための空間として構成されることを知ってから、この建築が、単に上手く設計されているだけのものでは無いことを思い知らされました。帰宅後、この設計者が設計する住宅は、寺部の家(52回)薬師田の住居(54回)と、ほぼ隔年で中部建築賞の「入賞」に選定されており、今回の計画もただ単に完成度が高い建築だけでは無く、前二作と施工者(建設会社・造園会社)と設計者とが共通で、かつ屋根ふき材を除き、地元の石、木、といった共通の素材を適用し同時に、床下空調による「全館気候調整方式」を確信をもって適用するなかで計画されたことを知り、ただならぬ設計者の技能と哲学に触れることと成りました。 とかく、現代住宅が「個室の数+LDK」と言った類型的な理解の中、無批判に計画されてきているなか、「どう建てるのか?(HOW)」では無く、「なぜ建てるのか(WHY)」から構想を始め数少ない設計者であることが、この連作から鮮明に示されたと思います。 当然、全ての家族は「個性」を持ち、その「願い」も異なるなかで住宅を舞台に「歴史」を紡ぎます。 この家は前2作とは異なった家族の在り様に基づき、子どもたちの成長を支え、その後の独立、夫婦だけの家、孫が訪ねてくる家、次世代が移り住み‥‥再び子育てを始める。といった「循環する時間のデザイン」が組み込まれた家であると考えます。 現在、南北の庭を繋ぎ「小動物」が飼われている土間には簡単に床を張ることで、東西が一体となり、北の開口は僅かな費用でロールスクリーンによる明るさの調整が可能となるなど、家族の要請、歴史に寄り添うように最適な状態に変容する「人にやさしい住宅」でもあると思います。 この作品の「入賞」で、三部作の一応の完結を果たすのか、今後の設計者の仕事に注目したい。 (佐藤 義信) |
平野に広がる長閑な田園地帯に建つ平屋の住宅である。建築家はその場所に調和する建築を目指し、周辺に点在する建物からその地域の景観を構成する要素を見いだし、デザインコードの手掛かりとした。田園地帯ならではの農業に関わる建築の無駄のない形態や構造を追求した機能美に着目し、この住宅の構想を得て周辺環境を活かし自然を身近に感じられる住まいを提案している。 外観は7.65mスパンを飛ばしたトラス構造の2.5寸勾配片流れの大屋根と桁上ガラス張り小壁が印象的である。内部空間は北側田畑の借景と南庭をつなぐ通路として三和土の土間が中心に配され、小屋裏は天井が一枚で繋がっており、小屋組の補強の斜材が単純な空間に変化を持たせている。個室は天然木の素材を活かした板張りの簡易な間仕切りで仕切られ、家族の気配が窺える空間となっている。 温熱環境は日射調整のため南垂れの片流れ屋根とし、居室の天井は大屋根そのもので一つに繋がっているため、自然風を最大限に活用して建物全体の自然重力換気を基本とし、エアコンと床下のダクトファンを併用して地熱を室内に還元し、熱負荷の軽減を行う全館空調的なシステムを採用し、快適な環境をつくり出そうとしている。 建築家自らが建物をイメージし制作した金物類は全てオリジナルの銅製であり、手が触れる引手、タオル掛けは抗菌作用の恩恵を受けている。 自然素材の活用、温熱環境含め自然環境のへの配慮、構想において評価するものである。 (筒井 裕子) | |||||||||||||||||||||
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