建築設計事務所が運営する小さな複合施設[h+BASE]福井県福井市石盛町302 |
この建築の一番の特徴は建築と運営者との総合力で地域に豊かな人間関係を生み出したことにある。 公園に面した立地条件を生かし木造のメリットを発揮させ構造や仕上げなど細部にわたって密度の高い検討を重ねた建築である。ある意味当たり前のことだがいいものを作るには欠かせないプロセスを丁寧に踏んで作られたことが感じられる。奇をてらわず在来の技術や材料を使いながら厳しいコストにもかかわらず魅力的な空間に仕上がっている。 一階は設計事務所と貸しスペースが中庭的なガラス張りの階段室を介して視覚的につなった空間になっている。貸しスペースはギャラリーみたいなスペースで家具や焼き物などの作品が並べられ道行く人も立ち寄っている。二階はロフト付きのスキップした空間になっている。個性的な空間にしたことで作家や在宅ワークのひとなど個性的な人が集まっているという。 一階の貸しスペースの一角には住人の作品も展示されているなど様々な交流が生まれておりさながら昔の長屋みたいな状況になっているのが楽しい。 中心部から離れた住宅地の中、ワンルームの賃貸には有利と言えない場所にも関わらず設計事務所が運営することと魅力的空間を作ることで高めの賃料にもかかわらずすぐに満室になったという。一般的なワンルーム賃貸住宅では採算制が最優先され建築的な楽しさや人間関係が生まれる運営システムには目が向かない。そこに風穴を開けた新しい試みは建築的質の高さとともに高く評価される。 建築家の仕事は依頼者から与えられたものにとどまらず自ら仕掛けていくという方法もある。ここでは地域に根差し地域に発信していく姿に感銘した。こういう方法で仕事を作っていくのもこれからの建築家の重要な職能になるように思える。 (藤𠮷 洋司) |
この建物は、1階部分に設計事務所を含むシェアオフィスとSOHO、二階部分には賃貸住居を計画されており、2階の住人が1階の店番をしたり、ショールームを借りて展示会やコンサート等のイベントを行うなど、お互いが助け合うようにして生業を営む場が計画されている。1階は、西側に水回りや倉庫などをコンパクトにまとめ、東側には極力壁を設けず、オフィスとショールーム中庭のみで隔てるなど、道路側の駐車場やテラスに開放的に作られている。 また、建物の構造フレームは、これまで設計者が住宅で試みてきた標準化した木軸架構をベースとしており、住戸の界壁に圧縮のみ受けるトラスを入れることで、東側の張り出しを可能としている。断面計画としては一階の倉庫を東側にロフトとして設けることで、賃貸住戸にレベル差を生じさせ、水回りとロフトをコンパクトに積層した西側と、天井高の高い東側がスキップフロアで繋がる魅力的なワンルーム空間となっている。 敷地は公共交通の便が悪く車がないと生活に支障をきたす場所であるにも関わらず、相場より高い家賃設定でも入居者は直ぐに決まり、順調に運営がなされているそうである。小規模でありながら、生業を起点にまちに積極的に開いていく複合施設がもっと増えてくれば、地方の郊外は魅力的で活き活きとしたものになるだろうと思わせてくれる建物であった。 (横山 天心) |
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