土蔵と補う増築岐阜県高山市 |
一絡げに民家と括られる町屋や農家が日本各地に残っている。その多くは、戦前に建てれたもので、それらが寿命を迎えると、観光的価値がある場所以外の、ほとんどの日本の街から消滅するだろう。建築が単純に進化し続けるだけであれば、古い建物は淘汰されても構わないが、古い建物には現代の経済システムや建設職人の置かれている状況では実現できない様々な価値をもっている。 特に日本では、古い建物は住み心地が悪く、現代生活に合わないという観念が、建築寿命を短くしている。これを覆すには、適切に改修をすれば現代の建物にはない価値を実現することができるということを気づかせてくれる優れた事例を地道に増やしていくこと以外にないだろう。破壊と建設の時代に生きている我々には、過去から引き継いだ遺産を次代に送り届ける義務がある。 この住宅の配置は町屋として標準的なものであるが、川に沿った敷地のために敷地の奥の蔵は川べりの道に面している。改修前は、長い時間のなかでの蔵の周りに小規模な増改築が繰り返されて中庭は埋まってしまっていた。それらを整理して中庭を掘りおこし、川沿いの薄い増築を剥がして川沿いの街並みを整え、蔵には耐震補強も加えて居住空間に変えている。設計者の最大の工夫は、蔵の外にガラス張りの階段塔を付け加えることでパッシブハウスに変えたことである。 単体の建築としての挑戦に加えて、設計者は間伐材の有効活用を進めるための流通機構の改善にも取り組んでいる。まさに、建設を地域のエコシステムに作り替えようと言う包括的で野心的な試みは、多くの建築関係者の指針となり、市民からの支持を獲得することになるだろう。 (大野 秀敏) |
土蔵の改修はこれまでにも試みがなされているが、その事例の多くは商業施設など住居以外の用途が多い。本作品は、土蔵を居住空間に改修したことに意義がある。もともと、蔵は収蔵物を長期的に守る機能を持っている。寒さの厳しい高山の気候から生活空間を守るという点で、現代に求められる居住性能と土蔵の性能を合致させた計画といえるだろう。 増築部分はこの作品のタイトルにもあるように、土蔵空間を機能的にも、熱性能としても補完している。土蔵空間に収まらない機能が計画され、土蔵よりわずかに高く計画されたヴォリュームは、南に面した開口から日射を取り込む一方で、街並みには主張することなく、高山の伝統的建築物群から続く宮川に面した街並みを意識したものである。この土蔵に寄り添うような姿が「補う増築」の意図をよく表している。また、地域の木材活用が積極的に考えられここで実践されている。 主空間の土蔵はその熱的性能を活かして、壁掛けエアコンを床下に設置し最小限の機械設備で室内環境を制御しているが、蔵の性能に依存し過ぎることなく、科学的な解析とともにデザインされることで、今後の土蔵改修における可能性の一端を示すことができるだろう。 土蔵で生活し、土蔵の東側に設けられた窓から主屋を見る様子は、時代が空間を反転させたようにも感じて興味深い。 (金子 尚志) |
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