地形と居場所静岡県 |
建築はその敷地の地盤面に置かれる。敷地の形状や高低差なども含めて「地形」と呼ぶとすれば、建築が地形とどの様に接するかは、その建築のあり方を大きく決めることになる。特に、本作品のような急傾斜地であれば顕著に姿として表れる。その傾斜、地形をどの様に受け入れ、建築としてどの様に応答するか、これもPassive and Responsive Designと言ってよいかもしれない。 主空間は2階に計画されており、窓回りがこの空間の質と重心を大きく決定づけている。また、中央のテラス部分の窓以外は370mmの高さでベンチとしても機能する木板が連続的に配置され、空間全体を制御している。住宅では、主採光面、庭につながる窓を掃き出し窓にすることで庭とのつながりをつくる事例が多い。日射・日照を取り込み、庭へのアクセスを考えるとこれは必然かもしれない。しかし、計画によっては窓周りに居場所がなくなることもある。掃き出し窓としないことで、窓まわりのアクティビティデザインが豊かになる事例は、ル・コルビュジエの小さな家や、アルヴァ・アールトの自邸などにも見られる。窓は建築の内外をつなぎ、人の行為を許容し、環境を制御する、窓まわりのアクティビティデザインだろう。 接地階は斜面に沿って階段状に構成され、T型に配置された上階とともに地形と居場所が作られている。ちょうどT型の交点のこの住宅のもっともよい居場所に置かれたピアノが、空間全体に心地よい音を響かせていた。 (金子 尚志) |
勾配30度の傾斜地に建つ。東に海を臨む傾斜地に、ふたつのブロックをT型に配置した建築である。ひとつは水平な床と屋根による構成で、鉄骨柱によって浮かしている。ここにキッチンとダイニング、ソファーの間と畳の間があるパブリックゾーンである。 もうひとつのブロックは、壁を主体とした固まりが傾斜と連動し、寝室とゲストルーム、浴室につながるプライベートゾーンである。パブリックとプライベートをT型で分け、水平と傾斜で構成するという配置デザインが明快である。 上階を構成するパブリックの空間は水平で成り立っている。連続する空間を竹によるスクリーンで仕切っていることが、水平の空間感を増幅させている。また高さ370mmのベンチを上階スペースに連続して設けることにより、水平ラインを意識させると同時に、空間が逃げていくことなく食い止めて、安心感を上積みさせている。 下階は斜面地に合わせた傾斜の空間で構成される。長い階段でつなぎ、昇降するたびに大地の傾斜が知覚される。上階は水平ラインが傾斜を意識させ極めて開放的だが、下階は階段により傾斜そのものが実体験され、個室により閉鎖性が保たれる。 構造は木造軸組工法であり、ローム層への積載荷重を最小限にするとともに、地盤改良が行われ、地業工事のコスト削減を図っている。上階の床を支える柱は細く耐久性を優先して鉄骨柱とし、軸応力材として本数を最小限にしたという。さらに耐震壁が適切に配置されている。これらのことによりT型空間構成の造形と構造が明快に呼応する建築となっているといえる。 (塩見 寛) |
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