関ケ原の家岐阜県不破郡 |
この住宅には確固たる形式がある。矩形の小さい空間を二列並べ、それを屋根の板を支える「柱」とし、中央の四つの「柱」が囲む居間を少し掘り下げるというきわめて始原的な組み立てでできている。表面が全てコンクリート打ち放しで、なおかつ形式的に見える平面計画は、ともすると暴力的な印象を免れないが、きめ細かな寸法決定と思い切りの良さがあり、快適な栖(すみか)が出来上がっている。決して親切な設計とは言えないが、時間的な変化に耐えられる勁さを持っていると感じた。 現代の日本の建築界は、建築家が住人に寄り添うという掛け声のもと、do-it-yourself的に住み手も住環境作りに参加できるようなある種の素人感を表に押し出し、形態主義(フォルマリズム)を排除している。私自身はどちらかを否定するつもりはなく、それぞれに意義を認めるが、時代が形態主義に冷たいことを考えれば、時代を切り開く力を形態主義に期待してもよいと感じる。そんなことを思わせる建築であった。 誤解のないように言い添えれば、発注者(住人)と建築家は十分理解し合い、ある意味で建築家と発注者(住み手)との理想的な協働関係の中から生まれた住宅であり、決して建築家の独走の結果ではない。 (大野 秀敏) |
省エネ法は住宅のデザインにどこまで影響するのか、これからの時代における環境デザインにおいて考えるべきテーマといってもよい。断熱や気密、省エネの点だけに配慮するのであれば、窓は小さく高断熱・高気密の住宅が最も効率的であろう。近年のパッシブデザインは省エネルギーであるとともに、周辺環境を取り込みながら環境とライフスタイルをどのようにデザインするかが主題となっている。 この住宅を特徴付けている緑化された屋根が低く抑えられていると感じるのは、土盛りされたことによるものだろう。アプローチの地盤から850㎜程度土盛りされた斜面の石段を数段あがると、大屋根の下にたどり着く。少し進むと特に玄関という設えはなく、上がった高さの分だけ階段を降りたレベルにおよそ9m×9mのLDKと記された主空間がある。四隅には断熱のないコンクリート打ち放しの従的空間の、クロゼット、水回り、寝室、収納が配置され、それらに挟まれて4方向に開口部が設けられている。この四隅の従的空間が熱的緩衝空間として機能していると考えるならば、緑化された屋根と合わせて主空間は一定の熱的性能を備えていると考えられる。また、4方向の開口部からは、それぞれ異なった景色と心地よい風を取り込んでいる。 住まい手はこの場所に長く住んできたからこそ、この地域の魅力も厳しさもよく知っているのだろう。その上でこの住まいを建築家とともに作ったのだと感じた。住宅は、住まい手が住み熟す(すみこなす)ことでまさに熟成していくのかもしれない。 (金子 尚志) |
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敷地の両サイドは大きな栗の木が林立し、背面は東海道本線の線路が面しているとても長閑で開放感のある敷地に、コンクリートの陸屋根が即物的に且つのびやかに8つのコアで支えられている。 屋根の下は既存レベルから850㎜ほど盛り土されることで、ピロティの天井高を2250㎜に抑えながら、中央の4つのコアを結ぶように設けられたLDKの天井を高くするとともに、そのプライバシーも確保している。LDKの外壁は盛り土より上部をすべて木製窓とすることで、それらを開け放てばLDKはピロティ空間と一体的に利用することができる。 審査当日は見事な秋晴れで、白色のカーテンをひらひらと揺らしながら、柔らかな風がLDKに入り込み、内外が連続するオープンな空間が心地よく感じられた。ピロティに光を落とすため設けられた屋根の開口部から梯子で登ると、その上は全面芝貼りの屋上庭園となっており、晴れた日には周囲の緑豊かなパノラマの風景を存分に楽しむことができる。 アウトドア好きのクライアント夫婦と設計者の共犯関係により生み出された特異な住まいを、楽しそうに住みこなしている状況を目の当たりにして、住宅建築のデザインにおいても提案可能な余地がまだまだ残っていることを改めて実感させてくれる魅力的な住まいである。 (横山 天心) |
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