いしざかやまこどもえん

愛知県知多郡阿久比町植大坂37
 丘陵地の高台に位置し、歴史ある寺院が地域で長年運営し、建て替えを機に認定こども園に移行した保育園の建て替え計画である。特徴は、隣接する寺院の境内に面して境界を隔てるものはなく解放しており、地域に開いているところである。
 寺院境内の参道までのエリアに人工芝を張り、安全で分かりやすい形体の園庭にしており、園児たちとは遊んでよいエリアの協定を結んでいて、管理状況はうまくいっているとのことである。境内の一部を園庭として開放し、境内園庭側に縁側という装置を設けることで、寺院を訪れる地域の人々と園児との交流も生まれている。
 外観は高さが低く抑えられ、存在感はあるものの決して主張しない佇まいであり、隣接する寺院の環境によく馴染んでおり違和感はない。
 内部空間はダイニングを中央にその両側に保育室を配し、境内園庭から縁側、ダイニング、園庭が繋がり、突き抜けた感があり園児の自由な行き来を促している。二階中央廊下には江戸時代から続く地元の「横松大工」の技術を継承する格子状の壁面遊具が設置され、地元の文化伝承も併せ他学年と交流する場となっている。子ども目線の楽しい仕掛けがあり、自発行動を促すアイディアが各所に盛り込まれているが、やりすぎないところがよい。ヒューマンスケールの上品で豊かな空間を生み出しており、子どもたちの豊かな感性を育むという園の運営方針に叶ったものとなっている。丁寧に考えられ空間の質は評価できるものである。
(筒井 裕子)
  この“こどもえん”は昭和20年頃から、地域の農繁期託児所として寺の本堂を開放したことから始まった。今回の計画は耐震性強化を機に、保育所から“認定こども園”への移行プロジェクトである。このプロジェクトの立ち上げにあたっては、園長自らが、こども園運営の意図・趣旨に合う設計者を選定するために奔走したという。まずは、その熱意に敬意を表したいと思う。
 既設の園舎は、寺の境内にありながら園庭との間にフェンスがあり、お寺との関りが少なかったとのこと。建て替えを機に境内(ある意味で公共空間)を園庭に開放することにより、年代・世代を超えたつながりを造りたい、とのコンセプトである。残念ながら現地調査の日は、園の行事のため子ども達の姿はなかったが、正に境内に開かれた園庭となっていると感じたところである。
 公共空間である境内を園児に開放する、と言っても実際は、自由奔放に動き回る子ども達をどう管理するのかが気になるところではあるが、園児たちとのしっかりとした約束事(遊んでいいのは人工芝のところまでという約束)を作ることによって、特に問題はない様である。参拝の人たちや墓参りの人たちとの交流が楽しそうに感じられた。
 建物は写真で見る以上に、境内にありながら全く違和感を感じさせない意匠である。「子供たちが主役であり、建物はその背景」との考えが実現していると感じる。保育の場とは思えない、“上品な”造り込みである。厨房や共用部(ダイニング・ベランダなど)は、配置や仕掛けの工夫で、子供たちの感性や興味を引き出す提案がなされている。また屋上テラスは、お寺の屋根や地域の風景を見渡せる楽しい場所になっている。発注者の熱意に対して、設計者・施工者が、その経験と惜しみない努力で応えた建物ではないだろうか?
(松本 正博)
主要用途 幼保連携型認定こども園
構  造
鉄骨造
階  数 地上2階
敷地面積
1,557.81㎡
建築面積
615.37㎡
延床面積
867.45㎡
建築主 社会福祉法人南部保育園
設計者 株式会社日比野設計
施工者 山旺建設株式会社
詳細は応募者のホームページを
ご覧ください。

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