サントリー天然水北アルプス信濃の森工場

長野県大町市常盤8071-1
 北アルプスのふもと、自然豊かな山々に磨かれた清冽な天然水を製造する、オープン工場である。水との出会いを通して水の価値、大切さに共感できる空間の場を提供したといえる。それは、いくつかのステージに立ちながら自ら体験するというシーンを創出している。
 最初のステージはアプローチ空間である。駐車場の車から降りると、そばを流れる乳川のせせらぎの音が心地よく響いてくる。水の清らかさ、豊かな水をイメージさせる演出である。森を進むと地下道へと導かれる。音のないトンネルが、その先にあるものを想像させ期待感を膨らませる。ふかふかの森を感じながら、さらに進むと斜めの柱で構成された天然水ハウスに辿り着く。一見不安定なように感じる無垢ヒノキの斜めのフレームは、視線をその先に誘っている。これが第2のステージである。
 天然水ハウスと名付けられた建築は、展示・ショップやセミナー室をもち、屋根下の広場で見学ガイドを受ける空間でもあり、水工場のゲート機能を有している。斜め柱が奥へ奥へと思わせる先には、みずのわ広場と呼ぶ円形のフィールドである。ここが第3のステージといえる。
 水を感じ、自然を感じ、周囲の山並みや地域を感じとれる広場には、来場者や従業員や地域の人たちが集まってきて、広い空間で何かがはじまる予感と可能性を感じる。
 第4のステージは、ものづくり棟であろう。生産ラインの自動化により、従業員が張り付かなくてよく、働く場所を選べる多様な居場所のあるワークプレイスとなっている。来場者や水源の山が見える生き生きと働く場の環境を創出している。
 第4のステージの佇まいについて、それまでのステージの表情、素材やかたちとの連続性がもう少し感じられれば、さらに評価したいところである。
(塩見 寛)
抜群の景色の中に建てられた工場、背景の北アルプスの眺望をいかに生かすかが建築的なテーマの一つになっている。
 気持ちよく働ける環境づくりはどうあるのが望ましいか、その解の一つがここにある。
 工場という閉鎖的な機能を満たすだけでなく地域に開くつくりにするのも重要なテーマとなっている。工場見学に訪れた人たちを招き入れるアプローチやトンネル、ゲートを兼ねる木とガラスでできた空間、さらに進むと美術館のような展示空間、最後は大パノラマのアルプスの絶景に出会うという演出が楽しい。ここを訪ねた人は工場見学を終えた後この景色を見ながら商品である天然水をいただく。美味しい水が商品の売りなのだがそれ以上に感じさせる憎い仕掛けだ。ずいぶん歩いた後の一杯の水がおいしい。
 従業員用の食堂からも広々したワンルームの事務空間からもアルプスのパノラマが見える。実にうらやましい環境だ。
 建築はこの環境をうまく引き出し、限られた予算の中で工業製品を巧みに用いシンプルに表現している。敷地に生えていた木材を活用するのも重要な要素になっている。
 木材など天然素材がふんだんに使えなくなっている昨今、木や石などを模した材料に置き換えられるのが普通のことだがここではそうしないでありふれた工業材料を使って表現することに徹している。
 この建築はクライアントの企業哲学を建築的に表現したことが一番の評価すべき点、言葉で語られた思想を建築空間という実態に置き換える。建築の原点を見た気がする。
(藤吉 洋司)
主要用途 食品工場
構  造
ものづくり棟:鉄骨造
レセプション棟:木造+RC造
カフェ棟:木造
階  数 地上4階
敷地面積
406,290.81㎡
建築面積
27,644.38㎡
延床面積
42,020.48㎡
建築主 サントリープロダクツ株式会社
設計者 竹中工務店 大阪 一級建築士事務所
施工者 竹中工務店 東京本店

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