尾鷲市役所本庁舎耐震改修三重県尾鷲市中央町10-43 |
尾鷲市は、築57年の庁舎を耐震改修して延命して使い続けることにした。一口で地方自治体といっても財政状況や今後の人口減少や高齢化などはまちまちで、どの自治体も古くなったから建て直しましょうというわけにはいかない。そうなると新耐震以前の建物であればせめて耐震改修をすることになるが、往々にして、いずれは建て直しということで、耐震改修は間に合わせ的な対応になり、無骨な筋交が無神経に取り付けられる。 尾鷲市庁舎では、設計者はそれに真摯に取り組み、七種類の手法が耐震補強をする場所ごとの性格に合わせてきめ細かく使い分けられている。たとえば玄関の風除室にはCLTエストンブロック耐震壁が使われ、木の町尾鷲らしさを放っている。また、一階の事務室は、天井を剥いで躯体を露出させて天井落下の危惧を一掃し、気積を増やすことで空間にゆとり感を与えている。市民が訪れる客溜まりの天井には木製ルーバーを付け、入って正面の柱には肘木風の装飾も付けて、風除室から繋がる表向きの顔を形成している。事務室の天井照明は、ケーブルを張り渡して、そこに直接ライン照明をぶら下げるだけ。いわば「ロフト的な手法」も動員して費用削減だけでなく、時代の空気も持ち込んでいるところに好感をもった。 建築の維持管理の常識からすれば、せっかくの改修なので、傷んだパラペットや当時としては標準的だが今となっては貧相な断熱仕様なども改善したいところである。財政的な理由から、耐震改修と化粧室の改善に限定されたようである。 日本では40年したら建て替えということが常識化しているが、国際的には非常識である。SDGsを言うなら、安全と快適性を増しながら建物の延命を図るべきである。派手さはないが尾鷲市庁舎のような地道なプロジェクトが増えることで、日本の施設管理の考え方が少しでも変わることを切に願うしだいである。 (大野 秀敏) |
過疎に苦しむ地方都市の、老朽化が進む市庁舎(築57年)。安易に建て替えをするのではなく、地場産木材を活用した耐震補強で再生する、というこのプロジェクトは、日本各地の地方都市における公共施設再生モデルの提示となるのではないだろうか? 地方の特色を生かしたリノベーションを選んだ発注者の選択、またそれに応えて相応の改修方法を提案し実行した設計者・施工者(今回は設計施工型)の努力をまずは評価したい。 改修にあたっては、財政負担の軽減はもちろん、RC造やS造ではなく木の活用による耐震補強、景観に配慮した工法の採用が求められた。また行政機能の確保・継続を可能とするため、仮移転なく居ながら施工が必要とされた。その為に今回、多様な耐震補強要素を採用又は開発している。特に、林業のまち尾鷲の地域特産である尾鷲ヒノキを使った補強要素は、新たにFEM解析により耐震性能の確認を行い、モックアップによる施工確認も実施した。 実際の補強にあたっては、市民の目に触れる箇所については景観配慮型として耐震補強要素に尾鷲ヒノキを採用し、一方、目に触れない箇所については一般的なRC造、S造の耐震補強要素を採用するなど、メリハリをつけた補強要素の選択により、財政負担の軽減が図られている。 残念ながら尾鷲ヒノキの活用については、地場に耐震用部材に加工する技術が無かったため、材料供給だけに留まった様だが、今後の技術継承に期待するところである。尚、財政的な問題で、今回のプロジェクトで外壁改修など行えなかったのが残念ではある。 (松本 正博) |
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