名城大学春日井キャンパス本館愛知県春日井市鷹来町菱ケ池4311-2 |
名城大学は、1942年竣工の鉄筋コンクリート造の建物を校舎として80年あまり使い、老朽化を理由に建て替えが検討された。改修再利用に実績をもつ設計者は、改修を提案し、工学的側面や経済性、合理性など多方面から綿密な調査検討を行って、適切な補強等をすればさらに62年間の延命が可能であることを示した。銀行融資をうけることもでき、取り壊される寸前の建物の延命ができた。設計者の保存改修にかける間口の広い知見とエネルギーを賞賛したい。 工事予算は厳しかったようで、減築・減量をした上での耐震補強という必要不可欠な工事と腐食した窓枠の交換に過半の予算を割くことになったという。その結果、建築家によるデザイン的介入は最小限になった。この建物のデザインは左右相称で無装飾を徹底した合理主義的流れにあり、吉田鉄郎設計の旧東京中央郵便局(1933年竣工、現在はJPタワーの低層部として保存)につながる貴重な文化遺産と言って良い。 改修前は、長期の利用で幾分やつれた印象であったが、改修によって、元の建築のもっていた威厳と心地よい静寂性が蘇った。改修再利用には、資源の有効利用という価値もあるが、デザインという文化資産の性格からも価値がある。現代日本の建築デザインは、広い意味での商業主義にしろ、それに抵抗するアマチュアリズムにしろ、いずれも利用者に「寄り添う」と称される姿勢が好まれる。 しかし、建築のデザインは進歩するものではなく、時代によって変化するものである。改修されたこの建物が持つ何にも媚びない凛とした姿勢は、いずれ、多くの人の関心を惹くようになるだろう。もちろん歴史的な証人としての価値もある。その点からすれば、腐食したオリジナルの細かい割の鋼製窓枠が、一つでもいいので修復のうえ保存されていればと残念である。 (大野 秀敏) |
現在農学部のキャンパスとして使われている敷地内に戦時中に建てられた建物の再生がテーマとなっている。もとは軍需工場の事務所棟だったが現在も校舎として使われている。 築80年と言われるRCの建物は特にデザインがいいとか親しまれているという建物ではない。当時の世相や軍需工場という特殊用途ゆえの実用性に徹したそっけない建物と言える。あえてそれを再利用して学校に使うことの意義は何かが気になった。確かに現在まで使われてきただけあって頑強そうな作りでこのまま使ってもまだ使えそうである、ただそれ以上に80年を経た遺産を残すことの意味のほうが大きいかもしれない。自分は戦争体験はないが過去にここで軍事物資が作られていたという話は重い。跡形もなく歴史から消し去り真新しい現代風の校舎にするほうが学生には好評かもしれないが過去の歴史を伝えていくには建築の果たす役割は大きい。 この建物はそのあたりをうまく残しつつ新しい空間に蘇らせたと言える。歴史を残し今の使用に耐えるようにリノベするのは現代の大きなテーマの一つ。その解の一つがここで提示されている。注目すべきは表層の改修にとどまらず構造を含め耐用年数まで想定した計画になっていることだ。この建物が残されたことの評価はこの先何十年か経って初めてわかることかもしれない。 今回一階の入口付近の床を一部撤去し地下の部屋とつなげたエントランスホールをつくりその一角に設けられたガラス張りのミーティングルームなどの手が入ったことで単調だった空間が激変した。リノベならではの面白さがここにある。一方で今回残された階段の手すりや床に施された人研ぎ仕上げ、今はもう見ることが無くなった仕上げが歴史を物語っている。 経済的合理性だけで建物の価値が評価されがちであるが歴史的価値を含めた評価を社会が共有できることが望ましい。この建物はリノベの意味を私たちに問いかけているように感じた。 (藤吉 洋司) |
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