清水建設北陸支店新社屋石川県金沢市玉川町5-15 |
この建設会社の地方都市支店は、36m角の正方形の平面を地上に三層積んで、小さい地下階をもつ建築である。従前からこの場所で活動してきた同社は、容積率的野心も持たず、自社専用ビルとして改築し、敷地内にある祠や緑地も残している。 一階に広いエントランスホールや応接諸室、機械室、車庫などが置かれ、二階に事務室、三階が会議室である。二階の事務室はフリーアドレス方式で運営されている。こうした階構成と構造計画、環境計画、設備計画が高い次元で統合されている。床下からカーペットを透過して冷温気を供給する空調システムと輻射冷暖房に加えて、さらに床面に設置された小型ファンで個人の嗜好に合わせてスマホで制御できるという念の入れようである。 コンクリート打ち放しの躯体の精度は高く、デザイン的に夾雑物となる面取りや目地はほとんどない。このために開発された面格子のルーバーが適度に視線を遮断しつつ見通しを得ている。水素利用の蓄電池も備えられている。屋根の構造は、木造の格子構造のように見えるが、実は鉄骨造で、ビルトHの梁の耐火被覆である。現在の日本の設計界が利用できる技術を全て投入したという勢いである。 常識的な感覚からすれば、ここまでするかという感じもないではないが、先進的なことは全てやろうという貪欲さは、建設会社の自社ビルとして考えれば合理性があるし、ここまできちんと実現されると、迫力がある。日本の建設界を牽引する会社の意地を感じる建物である。 |
環境への負荷を限りなく抑え、地域と人の環境に配慮することは建築が基本的に備える条件になっている。北陸の冬の厳しさは知られているところであるが、夏は東京以上に高温・高湿となり気候としては厳しい環境である。そのような気候において高水準のZEBを達成した環境型オフィスである。 本作品のポイントはふたつの規模感にあると言ってよいだろう。まずは建築の規模である。3層・約4200㎡の空間は中央に吹抜が配置され、トップライトによって光と通風が制御される。フリーアドレスを中心としたワークスーペースは程よい距離感とともに見通しよく計画されている。竪穴区画は避難安全検証によって回避し、防火区画はスプリンクラーを設置することで緩和を適用した結果、この空間が実現している。このテクニカルな建築計画と、タスク・アンビエント空調、照明などの環境制御手法が効果的に統合された快適な執務環境となっている。 もうひとつの規模感は、敷地への置かれ方である。建築面積を許容のおよそ半分に抑え、既存の樹木や稲荷境内を残したことは、何を残すか、いかに作らないか、という点においてもこれからの時代の環境型建築としてのありかたを示している。また、2方の道路側に面した南側と西側には、大きな軒下空間が作られており、中間領域と呼ばれる空間が周辺に対して何が可能かを示している。平時だけでなく、非常時はBCP対応とともに地域との接点となるだろう。 これからの環境デザインはどこへ向かうのか。ひとつの到達点とこれからのありかたを考えさせられる作品といえる。 |
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(大野 秀敏) | (金子 尚志) | |||||||||||||||||||
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