津市久居アルスプラザ三重県津市久居東鷹跡町246 |
津市の南部の久居地区の文化複合施設で、中心となる施設は劇場と美術展示施設である。建築の構成は、独立した目的的な施設をそれぞれ大小の箱に割り当て、箱の間が、利用者の交流のための多目的な場所、つまり「広場」のような場所となる。最後に、それら全体に大きな屋根を掛けるという企てである。 かつては、小さい町にもそのような場所があったが、クルマ社会になり、人々が気軽に長距離を移動するようになってからは、町の公共空間は車に占拠されてしまった。クルマ依存の著しい地方都市でこの傾向は顕著である。一方、劇も音楽も美術も、かつては一部の文化エリートのためのもので、必ずしも庶民にとって親しみのもてる存在ではなく、音楽ホールや美術館が、地域の交流の場になっていないことが多かった。しかし、近年は、音楽や美術を日常的に楽しむ人が増え、公共の文化施設もそういう需要に応えることが求められる。 久居アルスプラザは、この二つの需要を建築的な課題として捉え、地域の人々の居場所となる施設づくりに挑戦している。この方面で優れた実績をもつ設計者は、その蓄積に安住することなく、利用者が使いやすく、居心地のよい場所づくりに多大なエネルギーを注いでいる。あらゆるところにさまざまな工夫がなされていることに感銘を受けた。また、近年の日本の公共施設の過剰感を免れた潔さが心地よかった。この種の公共施設のひとつのベンチマークとなる資格があると感じた。 (大野 秀敏) |
旧久居市は、平成の大合併により津市など10市町村と共に、“新津市”の一部となった。この施設は、“新津市”の副都心核として位置づけされ、隣接する図書館と共に文化・芸術活動の拠点として整備された施設である。 中心となるのは、大屋根の下となるガラス張り、吹抜の“久居アートスクエア”。この二層の大空間の中に“アートスペース”“展示ギャラリー”“各種練習室”“会議室”などを内包する構造となっている。大屋根の既成H鋼と耐震木格子のハイブリッド構造、鉛直荷重を支える細柱、上部の採光・換気・排煙を兼ねるトップライト、これらが相まって、柱の存在を感じさせない軽快な大屋根となって、内部であるはずのこの空間が外部広場のように感じられ、特に南面の外観は、正に街に開かれたファサードとして秀逸で美しい。 劇場となる大ホール(ときの風ホール)は、地方の公共劇場として700席程度と程よい大きさであるが、オーケストラピットや仮設花道など、高次元の多目的ホールとして充実した舞台特殊設備を備えている上に、客席数の可変により、市民にも外部からのあらゆる催し物の誘致にも対応可能となっている。また、アートスペース、ギャラリー、ミーティングルーム、バックヤードなどとの配置関係、兼用、連携などにより、様々な活動、催し物が可能なよう綿密に計画されているのは、ホールの使い方を熟知している設計だと感じる。 練習室、会議室などの小部屋はガラス張りで開放的。見る、見られるの関係から刺激を受け、新たな活動へのきっかけ造りとなり、“久居アートスクエア”の存在とも相まって、施設の賑わいや集客性を高めるしかけともなるのではないだろうか? (松本 正博) |
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