志摩の小庭 いかだ丸太の家

三重県志摩市
 国立公園内の森にひっそりと溶け込むような建物である。木造平屋のこじんまりとした造りだが、解放感あふれ、クライアントの生き方そのものが感じられる家である。玄関を兼ねる“団欒スペース”は南北に風が通り抜ける心地よいスペースとなっている。それでいて、全く外部に開放的という訳ではなく、自然の樹木に守られ適度にプライバシーが保たれている。
 構造はいたってシンプル。地元志摩地域で、牡蠣や真珠の養殖に使われる“いかだ丸太”(若齢で小径の丸太材)をトラス材として使用している。高度な技術を使うことなく、在来の一般的な木造技術で組み上げられているところにも好感が持てる。
 “~地域を繋ぎ、人を繋ぐ~ 志摩という国に根付いた伝統と文化を見つめ直し、新しい価値観を創造、次世代へ伝承する”のコンセプトのとおり、“いかだ丸太”だけではなく、真壁に使う“竹小舞”“練り土”、屋根裏断熱の為の“もみ殻”、たたき土間の“三和土”など、出来る限り地元の素材にこだわり、又、建具はすべてクライアント自ら、解体する建物から収集したものだと言う。施工に於いても、可能な限りの作業を“クライアント”“設計者”“熟練の職人”“若い世代の職人”などによる“ワークショップ”として開催している点も評価に値する。文字通り、“次世代につなぐ建築”となっているのではないだろうか?
 最後に、ここでの生活や建築時の思い出話をする“設計者”“施工者”“クライアント”の様子に、この家への満足感が感じられた一日であった。
 今日の住宅は、全国津々浦々、どこへ行ってもいわゆるハウスメーカーの家が立ち並び、同じような材料を用い、同じような形態でつくられている。そして温暖地、寒冷地にかかわらず、冷暖房機器に頼って暑さや寒さに対処し、夏でも冬でも室内は年中春や秋、便利で、過ごしやすく、快適な生活を送っているのが現実である。昨今の急激な地球温暖化に対処しようと思えば、いたしかたないことかも知れない。でも我が国の住宅は元来、地産地消の産物で、身近に入手できる材料や地域の人たちの協力や援助を得ながら、四季折々の変化に富んだ豊かな自然や気候風土に調和しながらつくられてきた。その結果、独特の表情をもった地域性に富む民家が各地にみられたのである。
 志摩国立公園内の小高い丘上にある本作品は、このような本来の家づくりを改めて思い起させてくれる。桁行6間、梁間3間の平屋建て、切妻造りの小規模な家で、勾配は3寸程度で緩く、外壁は全面板壁で、簡素な住宅、周囲の樹木や竹林の中にひっそりとたたずんでいる。間取りは中央2間×3間を三和土の土間とし、その両側にとる板間は南側がダイドコロと食堂、北側をリビング、居間とし、いたってシンプルである。しかも中央土間は南面と北面を開放し、海風と山風が朝夕交互に吹き抜ける。夏場にクーラーはいらず、冬場も中央室暖炉のみでOKという。また、当地の真珠養殖用のいかだに用いる丸太(筏丸太)を母屋や小屋組材とし、半割の斜材を用いたシーザーズトラス組も軽快で、特徴的な室空間を創り出している。そして建具はすべて他所で使用していたものを修正しながら再利用、転用している。まさに地産地消である。「すまいは夏を旨とすべし、冬は如何なるところにも住まう」(吉田兼好『徒然草』)を身をもって実感させてくれる作品といえる。
 風呂がないのが、やや気になったが、ご夫婦で管理する隣地にある国登録文化財猪子家の浴室を利用したり、近くの温泉施設を利用していて不便は感じていないという。
(松本 正博) (吉田 純一)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造(伝統構法)
構  造 地上1階
敷地面積
498.26㎡
建築面積
67.59㎡
延床面積
59.62㎡
設計者 m5_architecte一級建築士事務所
施工者 東原建築工房
詳細は応募者のホームページを
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