miike長野県東御市和3151-4 |
東京で15年以上の美容師夫婦がUターンし、妻のお爺さんが建てて使っていた農業用倉庫を再利用し、新しく美容院として開店したリニューアルな建築である。お爺さんの農夫として働く思い出を、孫娘がオシャレして綺麗になる場所につなげたといえる。 浅間山麓に広がる田園風景のなかに、間口10.8m×奥行6m×高さ3mの農業用倉庫の構造体そのものを生かして美容院という用途の建築に変える計画は、一見奇異に思える。この大きさがフォトスペースをもつカットブース3席、シャワーブース2席の美容院に相応したといえる。 シャッターによって全開放できた南面は、その半分をカットブースの鏡が外部へはミラーとなって周辺の景色を映し出す地域の鏡になり、また3つ並んだミラーが美容院を意識させるという効果を生み出している。もう一つの半分はエントランスの床から天井までガラスで仕切られてはいるが、同じ床仕上げによって内と外をつないでいる。 プレハブ倉庫の外壁を支える下地であった胴縁をそのまま生かし、窓の位置を決めている。席に座ると、ほどよい高さに鏡があり、またガラス越しに周辺の田園風景が眺められる。胴縁のラインが内部においてはそのものの白いラインとして、外部においては窓の輪郭と開口部の桟が外に現われ、倉庫だったかたちをつないでいる。倉庫だった建築の履歴をあえて見せているのである。 この地域には周辺に同じようなプレハブ倉庫が点々と存在し、それらの中の一つがかたちも大きさも同じの美容院に生まれ変わる出来事は、時間の連続性と空間の連続性をこの場所で主張し、物語性を紡ぎ出した建築といえるのではないか。建築は場所に依拠した存在であるべきものであり、この小さな建築は、お爺さんの生きていた時間を受け継いで新しい姿を体現し、これからの未来の時間につなげていく物語がはじまっていることを伝えている。 |
クライアントの祖父が浅間山麓の田園に建てた何の変哲もない鉄骨造の農業用のプレハブ倉庫を、美容室としてリノベーションしたものである。敷地は小さな鳥居から持ち主の居なくなった古い神社へ上る細い参道を兼ねた農道の途中に位置し、東御の町とその先に八ヶ岳連峰を見下ろす絶景が眺められた。 その特性を最大限活かすべく、元々シャッターで仕切られていたファサードの左側半分を出入口も含めた全面開口とし、右側半分は腰壁と垂れ壁がある水平連窓となっている。外壁のインテリアは柱と横胴縁が見える真壁構法となっており、特に横胴縁はインテリアデザインのガイドラインとなっており、全面開口部の無目、水平連窓の窓台・まぐさや、内部の収納ボックスの棚板、カウンターの天板等と高さを揃えることで、農業用倉庫の面影を残しつつも、白を基調としたシンプルですっきりとした美容室のインテリアとして上手に再生している。 シンプルな箱があれば、その中に自分たちのつくりたい空間は実現できるというクライアントの信念に寄り添い、最小限の手数で応えようとする建築家の意図が見て取れた。天井のライティングレールの納まりや、外部に無造作に露出された設備用の配管や機器などにも配慮されていればさらにその姿勢は貫徹されたであろう。 何はともあれ、従来の役割を終えて放置されていた倉庫を、町の人がオシャレをしに行くハレの場へと生まれ変わらせるというストーリーにも好感と共感が得られるプロジェクトではないであろうか。 |
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(横山 天心) | (吉田 純一) | |||||||||||||||||||||
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