花水木ノ庭 -広場路の長屋-

富山県富山市南田町1-4-3
 ウナギの寝床のような奥行きのある敷地に長屋形式の商店や飲食店が軒を連ねる街並みに、店舗を併設する集合住宅とその駐車場を設ける計画である。周辺の建物は敷地内に駐車場を設けていないためか、店舗が前面道路に面して配置されているものが多い。そのため、従来のように駐車場を前面道路に面してできるだけコンパクトに設けるのではなく、周辺と同様に店舗を道路に面して配置し、車路を敷地内に引き込み、光庭を兼ねた駐車場を車路と直角に2か所に分けて設けている。通りからは車の存在感が希薄なため、設計者が「広場路(ひろばろ)」と命名しているように、車路は奥行きのある幅広いアプローチ空間のように感じられる。
 さらに2階レベルには、「広場路」と立体的に連続するように、各住戸占有のテラスを設けることで、敷地の奥でも、日が当たり風が抜ける快適な空間を実現している。
 また、敷地の中央部には、シェアスペースが用意されており、イベントの開催や地域住民との交流の場など、広場路が様々な用途に活用できるように計画されている。
 「広場路」を敷地に引き込むことで、お店やイベントの賑わいや住人のアクティビティが街と程よい距離感を保ちながら表出することで、新たな商店長屋の魅力を提示した意欲的な提案といえるのではないだろうか。
 市街地の多くの宅地は、通りに面した間口が狭く、奥行きが長い短冊状の敷地を有している。これは藩政期の名残で、当時の町家は通りに面して建ち、入り口から奥方へ土間を通し、その背後に中庭をとって採光や通風に供し、敷地の最背後に土蔵をもつのが普通であった。しかし、現在は多くの家が車を所有しており、こうした狭い敷地に駐車スペースをいかにとるか。最も普通にみられるのは住宅をやや奥方にたて、通りに面した前方に駐車スペースを設けている例である。しかし、こうした家が連続して立ち並べば、通りの景観は殺風景なものになってしまう。しかも一方ではまちづくりや地域づくりが叫ばれ、町中において優れた、心地よい通り景観を創り出そうとする機運も高まっている。町家にとって駐車スペースの取り方は今日的な大きな課題といえる。
 当作品は、富山市内の花水木の街路樹が立ち並ぶ通りに面してたつ。宅地は間口が5間程度で狭く、奥に長い、やはり短冊型である。住居は通りに面してたつが、2階に住居スペースをとり、1階は西半部に奥さんの店舗と設計者のアトリエを設けるものの、東半部を広場路(ピロティ)として奥まで開放し、アトリエ奥に設けた駐車場への導入路にしている。そしてこの空き空間は各種イベントや仲間との交流場にも利用しているとのことである。
 宅地の奥方には1階に両親用の住まいを設け、その2階に2戸分の賃貸住居もつくられているが、賃貸者用に2台分の駐車スペースがあり、やはり広場路を導入路としている。つまり、本作品は、広場路を取ることにより、旧来の短冊形宅地の中に4台分の駐車スペースを取り込んでいるのである。幸い、敷地間口がほぼ5間あって、やや広いとはいうものの、現代の都市住宅における駐車スペースの取り方に新たな提案をしているといえる。しかも、駐車スペースの上方は吹き抜けになっており、冬場の雪処理には問題もあろうが、町家の課題ともいえる通風や採光の問題にも対処している。
(横山 天心) (吉田 純一)
主要用途 住宅、シェアスペース、店舗、賃貸住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
360.22㎡
建築面積
258.39㎡
延床面積
317.65㎡
建築主 沼 哲夫・節子・俊之
設計者 dot studio一級建築士事務所
施工者 前田建設株式会社
詳細は応募者のホームページを
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