「Cuisine régionale L'évo」消滅集落のオーベルジュ

富山県南砺市利賀村大勘場田島100
 かつて渓谷沿いに民家が立ち並んでいた限界集落を敷地に、オーベルジュは計画されている。敷地は道路沿いに緩やかに傾斜地しており、かつての民家は石垣で造成された土地に建てられていた。そうした集落の痕跡を丁寧に読み解きながら、それらをトレースするように、レストラン棟と3つのコテージ棟とサウナ棟が配置されている。
 また屋根はその頂部に雪割りを配した変形切妻を採用したり、エントランスには雪囲いのような幅広の水平ルーバーを用いたり、既存家屋の建具をインテリアのスクリーンとしてリユースするなど、新築でありながら、どこか昔の集落の面影も感じられる計画となっている。
 手つかずの自然の恵みを極力人の手を加えずに唯一無二の料理として提供するというオーナーシェフの信念に則り、建物の周囲は石垣と野草と既存樹木が織りなすランドスケープとすることで、もはやどこまでが敷地境界なのかわからなほど周囲の風景に溶け込んでいる。
 電気以外のインフラが整っておらず、冬季は一階の壁面がほとんど覆い隠されるほどの雪が積もるといった、厳しい環境を厭わず、自己の理想を探求し続けるクライアントと、その想いに真摯に向き合い応えていく建築家との良好なコラボレーションが結実することで、限界集落はあたかも桃源郷に姿を変えていったと思わせるようなプロジェクトである。
 当作品は富山県内有数の豪雪地帯である利賀村に数十年前まで存在していた旧田之島集落に新たにつくられたレストランと宿泊機能を備えた施設である。砺波市や富山市から庄川沿いの紆余曲折する山道を車で走って1時間強。視察日は好天にも恵まれ、紅葉を眺めながらの快適なドライブであったが、こんな山奥にお客を呼べるのだろうか。ましてや冬場はどうなのか? こんな懸念も現地に着いた途端一変。数台の富山ナンバーの車が止まり、レストラン棟の煙突から白い煙がたなびいていた。元の家はないものの、段々状の宅地の跡や4,5段に積まれた石垣や畑の跡、水路などはほぼそのまま残り、周辺の樹木や草花などもあるがまま。この施設は旧集落の宅地跡や形態、周囲の環境をそのまま保持、いやむしろそれらを活かしてつくられているのである。
 2階建てのレストラン棟と3棟のコテージ、パン小屋、サウナ施設が点在するが、いずれも切妻屋根で、棟に雪割を備え、旧集落の家々を思い起こさせる。中心となるレストラン棟は2階建てであるが、傾斜地を活かし、駐車場から同レベルで2階のエントランスへ導かれ、高さの威圧感はない。コテージも小規模で、施設全体が周囲の自然、風景に埋もれ、溶け込んでいる。レストランはオープンキッチン形式で、テーブル席からジビエ料理をふるまうシェフたちの姿が見え、窓越しに山々や樹木や川の流れも飛び込んでくる。コテージもそれぞれ谷側に大きな開口をとり、一切手が加えられていない草木や雑木、あるがままの自然が眼前にひろがっている。冬場も屋根からの落雪を除く程度で、施設は雪の中にしっぽり埋まったままという。特に都会や温暖地の利用者は山村や雪国の生活、ありのままの自然に触れることで満喫される。まさに山村や雪国生活へ原点、原風景への回帰である。
 これまで20年余り、学生たちと福井県勝山市の、住民はただ一人という限界集落の再生、活性化活動に関わってきたが、「限界」を超えた「消滅」集落の新たな活性化事業としても驚かされた。
(横山 天心) (吉田 純一)
主要用途 飲食店・ホテル
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
7,410.97㎡
建築面積
596.36㎡
延床面積
868.35㎡
建築主 株式会社 Dotok
設計者 一級建築士事務所株式会社 本瀬齋田建築設計事務所
施工者 近藤建設株式会社

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