下石の通い所岐阜県土岐市下石町橋詰110-13 他 |
土岐市の市街地に立つ、デイケアー・デイサービスを提供する木造平家の施設である。一般的にデイケアー施設は、身体機能の維持や改善といった治療をともなうために広い空間の確保が優先され寒々しくなりがちである。この施設はある意味で真逆である。外観の特徴である雁行は、不整形な敷地に起因するところもあるが、それ以上に内部に小さい出隅入隅を含む領域群で全体を構成しようという意図の反映であろう。間取りの中心には開放的な厨房が置かれている。きめ細かな気配りのためには、厨房に立つ職員も、時には利用者に目を向け、言葉を交わす機会が持てる。一方、デイサービス施設については、一般的には利用者は圧倒的に女性が多いが、ここでは男性の比率が高いそうだ(現地審査の日もそうであった)。日本の男性の多くは近隣社会での社交が苦手で引っ込み思案である。小さい領域は、そうした人たちに心地よい居場所を提供する意味で好ましいだろう。 この建物の特徴は、小さい領域の偶発的な集合として特徴づけられる間取りに相応しい構造が模索されたことである。耐震壁は柱材をボルトで緊結したもので、これを平面の都合と調整しながら配置している。その上の小屋組も個性的である。小屋組は二段の水平構面を持ち、各段の水平材相互は交点を分散させるために、追い回しのような配置にしている。二段の水平構面は、互いに位相をずらせた斜材で結ばれ立体トラスを形成している。全ての部材は流通している製材を用いている。組み上がった小屋組は質量的に軽快であり、相互関係は偶発的に見えて肩肘張らない空気を作り出している。さらに上段のトラス面の下に天井板を貼ることで、昨今の木造建築にありがちな構造体を誇示する押し付け感を免れている。 間取り、構造、デザインが一体となって、極めて現代的で知的で、なおかつ親しみやすい建築となっている。 |
かつては美濃焼の産地として栄え、人口減少と高齢化が進むまちに建つ通常規模通所介護施設(デイサ-ビス)であるが、全面ガラス張りで明るく開放的な様は、地域のコミュニティセンタ-を思わせる佇まいである。 内部はデイサ-ビスに求められる要素としての利用者を飽きさせない刺激のある様々なプログラムや、将来的なニーズの変化に対応するためフレキシブルな空間が求められる一方、利用者の安心感にも応えるべくワンフロアを量感のある木表しの壁パネルで緩やかに分節する平面計画となっている。中央にはオープンキッチンが配置され利用者への目配りがし易く、提供される昼食の準備の様子が見えるなど利用者の刺激にも繋がっている。 本施設は地産地消の木造として縦ログ構法を採用している。角材を束ねてボルトで緊結しパネルの両端にくる角材を柱と見なした柱付パネルを壁とし、構造の考え方は在来軸組構法に則っている。地域の製材所で加工し工務店で造ることができるロ-テクで汎用性のある構法で、木材の生産から施工まで地域内で完結でき、木材を積極的に活用することで地球環境にも配慮している。 上部は上段梁組と下段梁組に軸力と水平力を分散する登り梁を組んだ3次元の平行弦トラスの小屋組みで、天井は上段梁組下に位置する。フロアから見える下段梁組は地域の一般流通材120角材を使用し、長さの制約から相持ちの梁組となっており、そのランダム感がフロアの緩やかな分節に変化をもたらしている。 デイサ-ビスの利用者は一般的に女性が多いと聞いていたが、この施設は男性が半数を占めていた。他とは違う魅力があるのだと思う。地域にとって求心力となり新たな包括的介護の場となりうる可能性も含め、クライアントの深い理解のもとデザインされたこの施設は、評価に値するものである。 |
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(大野 秀敏) | (筒井 裕子) | |||||||||||||||||||
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