城下町の客室三重県伊賀市上野農人町422 |
通常、国内で宿泊を伴う観光をする場合、地域の特徴ある食事をしようとする場合、専門性が高いレストランとビジネスライクなホテルを選択し、一方、日本的な体験をしようとすると旅館に泊まり、宿が用意する決められた食事を摂ることと成る。しかし、多くの旅館が連泊をさほど意識せず下手をすると毎日似たような食事となることもある。 現在、観光庁によれば現在、日本人は年間で1.5回2泊弱程度の宿泊観光が行われているようであるが、ヨーロッパのような長期にわたる休暇が法律で定められていない我が国においては上記のような状況はなかなか改善されないできた。 本計画は旅行者に「忍者」をはじめ「松尾芭蕉」や築城の名人、藤堂高虎の「伊賀上野城」などの歴史的資産に加え、工芸、食品など多様な伊賀上野の魅力を町ぐるみで楽しんで頂くための仕掛けとして、伊賀市と協力し、現在「空家」となっている町家を1ユニットあたり約2000万円かけ宿泊施設に改修したものである。 計画は100年を超える町家が点在する歴史的な通りに面し、可能なかぎり計画地が備える「時間の蓄積」が阻害されないように、最小限の改修を施したものとし、通りに面する「伊賀組み紐」の店舗はそのままに、東の端の一間を宿泊室の入り口とし、その奥に母屋と大小二つの「蔵」を外国人でも快適に過ごせるように、現在の生活様式に適合する最小限の手を加えたものとなっている。 現在、伊賀市内には同様の取り組みをしている施設としてメインとなるフロント棟、本年5月にオープンした客室棟が稼働しており、さらに追加の施設が計画中とのこと、今後、より面的な展開を進める中、伊賀上野ぜんたいとして「もてなしの街」として充実するとともに、このような町ぐるみの保存・観光事業が全国各地で展開されることが期待される。 |
歴史的な古い町並みが残る、城下町三重県伊賀市の中心市街地に計画された、空き家を改修した“分散型ホテル”である。通り沿いには築100年を超える町屋が点在している。この客室も江戸時代から大正時代に建築された建物である。客室は3室のみ、ホテルのフロントや食事の施設は無く、宿泊に特化している。この形式でプロデュースされた施設はここが初めてではないが、若い女性客には人気が高いと聞く。過疎化に悩む地方都市の新しい観光施設として、一役買うことを望むところである。 宿泊客は、別のフロント棟でチェックインを済ませ、古い町並みや地元の商店街を巡ってこの宿泊棟へたどり着く、食事は各自が思い思いのレストランなどで済ませる、という形式だ。オールインワンのホテルでは味わえない、地元の歴史や文化に触れあうことが出来る仕組みである。 客室は、既存の和室をそのまま利用することを基本に、水廻りなどを使いやすく改修し、プライバシーの確保と景観の為に庭を整備している。畳や床の仕上げは更新する一方、壁・天井はそのまま残し、やむを得ず新設した壁も地元の土による左官仕上げで統一感を出している。家具も地元家具職人との協働によるデザインだ。特に座椅子は旧伊賀市庁舎を設計した坂倉建築研究所によるデザインの復刻版である。客室や庭の備品にも伊賀に因んだ素材や、地元職人、作家の手が絡むものとなっている。 全体として、古い町屋の雰囲気を損なうことなく、丁寧な造り込みによって、これだけの居住性を確保した手法を評価したい。 |
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(佐藤 義信) | (松本 正博) | |||||||||||||||||||||
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