Involve愛知県日進市折戸町中屋敷181-1 |
世界中に供給先を持つ自動車の溶接機部品メーカーの機械製作工場であるが、「工場」というより設計から製造まで一貫して担う「工房」と言った佇まいの建築である。 丘の上に建ち「屋根のみの建築」とも見える特徴ある外観は背後の森とともに地域のランドマークとなっている。 嘗て、軍事用食料として発明された「缶詰」が、市民生活の一翼を担うようになると、外部からはその商品の安全性や優越性が確認できないため、そのレッテルにその商品を作る「工場の外観」をプリントすることにより購買者に内容物のクオリティーの高さを暗示してきた。 同様に、INVOLVEは国内外から商談で訪れる顧客に対し、世界最先端の製品がつくられる場所が、製品のクオリティーに相応しい環境であることの重要性を良く知っている社長と、その思いを理解し具体化した建築家との協働が生んだ作品と言える。 一見複雑に見える建物の構成は、中心から対数螺旋の線上に柱を建て、15度の角度で梁を掛けることにより全体が相似形の三角形となることから、全ての交点における接線の傾きが等しくなるという性格を活かした構成となっており、筋交等の長さのみを調整して合理的に構成されている。 また、外部は亜鉛メッキステンレス板で屋根のみならず壁まで全て蔽うことにより、この建物のユニークなボリュームを表現している。 同一の製品が多量に生産される工場では、とかく矩形の平面構成で、入り口から出口まで一方向の流れで製品がつくられ出荷される。 一方、世界の自動車メーカーに特徴ある唯一無二の製品を開発製造し、供給することを目的に建てられたこの建屋では、螺旋状の流れのなかで、企画・設計・製造の各段階が密接にかかわりながら製品が製作されることが求められており、その関係性を建築的に翻訳した「解」と考えた。 |
日進市の郊外を走る幹線道路沿いに建ったこの建築は以前から気になっていた。特徴の無い殺伐とした幹線道路沿いの風景に突然この建物が現れたのは地域にとっても衝撃的だったに違いない。ダイナミックな螺旋の屋根が大きく跳ね出された外観は一般の人にもインパクトを与えるものだ。こういうエリアでは経済効率が最優先されるのが一般的で美的な要素が入り込む余地は少ない。何でここにこの建物が生まれたのかという点も気になったところだった。この建築は機械関係の社屋で工場と研究開発などの本社機能を併せ持ち海外の取引先からの来訪者も多いというクライアントの話を伺い納得した。西欧の取引先はこの建築を見てここなら、と安心して依頼してもらえる効果が生まれ大変満足しているということだ。 建築は企業のイメージを体現する顔のはたらきともなるのだと改めて感じた。建築が顔としての働きを持つのは時代を超えてまだまだ有効なのだと。 内部に足を踏み入れると期待を裏切らない空間が広がっていた。螺旋のプランの空間構成がうまく会社の機能を織り込んでつながっている。随所に立体的な変化が生まれここに働く人たちにとっても快適な環境になっていると思われる。食堂に続く外部には居心地のいいテラスが設けられるなどきめ細かい気配りが行き届いた建物になっている。 クライアントは設計者の選定に当たってホームページを見て問い合わせされたという。個人住宅では珍しくない話だがこういう施設の設計にも及んできたことで様々な建物のデザインに影響が出てくるかもしれない。設計者にとってもチャンスが広がることはうれしい話だ。 |
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(佐藤 義信) | (藤吉 洋司) | |||||||||||||||||||||
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