当住宅は、織田信長が岐阜城をつくった金華山の麓、登り口に通じる通り沿いにあり、城下町特有の表間口が狭く、奥に長い短冊型の敷地にたっている。敷地の前方に駐車スペースとジュンペリーとヤマボウシを植えた前庭をとり、住宅はその奥方にたっている。
玄関を入ると、板床はなく、そのまま十和田石敷きの土間の通路になる。天井は低めで、壁や天井はベニヤ合板、いたって質素だ。やや薄暗いが、眼前にキンモクセイやサザンカがたつ中庭から差し込む柔らかな明かりが印象的。この中庭に突き当たると、左折し、その正面に二階への階段がある。石敷きの土間はそこからさらに右に折れ、奥の出入り口に通じている。伝統的町家の直線状の通りニワを曲折させて現代風の通りニワをつくっている。中庭も町家の母屋の後方にあった小さな坪庭を取り込んだとみることができ、1階のほの暗さも伝統的な町家に通じている。
階段から2階に上がると、ダイニングキッチン、その奥に浴室・トイレをとり、表側にはリビングとその前方にテラスがある。階段脇の通路を介したワンルームで、前方および中庭上方から光が差し込み、明るい開放的な空間が広がっている。横幅は4m余に過ぎないが、前庭や中庭の樹木も見えて広々感が漂っている。1階との明暗の相違も印象的である。
このように当住宅は、旧来の短冊型の敷地を生かしながら伝統的町家の通りニワや中庭を現代風にアレンジした好例といえる。城下町など古い町に限らず、現代都市でも住宅の敷地は限定されているが、当住宅は、前庭や中庭をとりこみ、狭い敷地をうまく生かし、快適な生活空間を作り出している。そして下駄箱や二階戸棚などを自らが作ったり、春先に前庭のジュンベリーの実を求めてやってくる野鳥や紅葉のお話など、この住宅を愉しんでいるご当主も強く印象に残っている。
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