この建築賞は、建築主・設計者・施工者の「三者」を対象に評価するものですが、設計士の立場からの審査及び選評内容は、それゆえ相対的評価にならざるを得ません。良き悪しきはともかく、それなりに地方で小事務所を営みながら設計・監理の経験を積み、民間・公共問わず、発注形態・設計システム・施工業界の状況など、建築を取り巻く環境を体験し、自分なりの経験・体験に照らして素直に評価し記したつもりです。
応募資料の表紙を飾る、美しく端正でインパクトのある高床の外観の写真に引き込まれ、直ぐにページをめくり始めました。シンプルな平・断・立面図が続き、主たる素材が、形状・寸法こそ異なるものの、全て桧材で構成されている外観・内部写真からは、同一素材採用のシンプルさを越えた、心地良さとリズム感そして高い構成力を感じました。
改めて表紙に戻り建物の趣旨・概要を読み返してみると、まず「誰にでも造れること」とありました。そして「造ることに対する欲求」にも近い興味から、設計事務所による設計・施工で、設計士自ら現場監督をし、時には現場の作業も熟し、設計士・職人・施主の三者で造り上げ、総工事費のローコスト化を計る為に、詳細図や納まり図の設計も省き、「図示しすぎないことは、より想像を生み出す。」とDIYにも似た施工プロセスへの期待も記されていました。
現地審査での印象は、いわゆる「設計士」の仕事としての評価だけでは計りきれませんでした。「誰でも造れる」ことと「設計者の造ることへの欲求」とのずれ、例えば設計作業の省略化に伴う現場作業量の拡大など、設計士の専門性に対する評価です。年を重ね五感の感受性を弱らせ、リアルな現実社会への私の感度を悪くしているに違いありません。この作品は社会的変化の中で新たな設計活動行為として、専門性の在り方を含め評価すべきなのでしょう。
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