書類審査の講評会では、“「デ・スタイル」への興味から、モンドリアン絵画のコンポジションの美しさ巧みさを、色彩の重み付けと面積比とから分析しようとした学生の卒論…「モナリザ」の衣服をとると胸が現れるが、浮世絵の人物画は衣服をとると線しか残らないと、西洋と日本との立体・空間の把握・表現の相異を語った人との遣り取り…浮世絵に興味を持ったゴッホの「花咲くアーモンドの枝」の枝が線画のように描かれていた事…桂離宮や書院造の内観の写真集”など、線と面やプロポーションとコンポジションのあれこれを思い浮かべながら感想を述べました。
この作品は1間=1.82mグリットで構成された、東西6スパン・南北4スパンの平屋です。また平屋にしては少し高めの3.3mの階高で、過半を占める中央部に3.3mの吹抜け的な天井高の居間・食堂が、周囲に寝室・ユティリティー・ロフトなど諸室が2.1mと1.2mの高さに上下で空間的に分節化されて配置されています。
応募資料から受けた、内壁面のプロポーションの美しさ、真壁の柱・梁・壁がつくるコンポジションの確かさ、それに比べて華奢で混み過ぎと感じた居間の独立柱など、是非確かめてみたい印象を携えて現地に向かいました。また、設計者が私とは全く世代の離れた若い人で、現地に向かう車中での会話からは、モンドリアンや書院造りなどへのこだわりが無いことが分かりました。
引き算されたデザインで、実にすがすがしい建物です。主空間の3.3mの天井高と1間グリットで立つ3寸角の独立柱は見事なバランスで空間を構成し、資料から受ける華奢・煩雑さは感じません。何よりも柱と梁そして白壁のプロポーションとコンポジションは当人の持って生まれたセンスの良さで、私には設計士の基本的な資質の確かさを感じました。(センスだけは教育や経験を積んでも培われない才能だと思っています。)
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