島田の家

所在地 :静岡県島田市
 南北に奥行きの深い敷地は北を旧東海道に接する。今や街道の面影はほとんど無く、倣うべきコンテクストがない中で、設計者はかつて軒を連ねていたであろう店舗を兼ねた住宅、町屋を志向したとのことである。
 平入の奥行きの深い切妻のボリュームが、駐車スペース分セットバックして置かれている。ここに生業を持たない専用住宅なのだが、道路面(北面)はすべて開口部とし、街に開く軒の低い構えを見せる。
 入り口から奥まで土間となっており、中央に位置するリビングと最南端の水廻りのみが一段(10pほど)上がった板張りのスペースとなっている。キッチンも土間ゾーンにあり、かつての町屋の通り土間を思わせる。
 リビングと水廻りの間はトップライトから光が落ちる吹き抜けたオープンスペース。建築主からの要望であった「室内で植物を育てる場所」がここに実現している。吹き抜けには階段が掛かり、二階から見下ろすことができる。光に満ちたこの吹き抜けは植物を育て、眺める温室であると同時に水廻りへの経路でもあり、時には物干し場をも兼ねる多目的な土間空間となっており、家全体に息吹を与えている。天井際に絶妙に設けられたハイサイドライトは東からの採光を可能にすると同時に、外にこの家の成り立ち、アイデンティティーを垣間見せる。
 屋根架構はSPF(38mm×235mmの扁平木材)の門型フレームが455mmピッチに高さを変えて連続することで切妻が構成されている。この門型の構造材はそのまま室内にあらわされ、生活空間の背景となっている。屋根面(梁材)ではトップライトのルーバーとなり、壁面(柱材)では棚板を差し込んで飾り棚になったりという具合である。インテリアはラフで合理的で簡素とも言えるつくりであるが、作り過ぎず、必要十分であり、むしろ抑制のきいた豊かさを感じさせるのである。
 町屋への志向はノスタルジーに赴くことなく、現代に読み替えられて生き生きとした住空間を実現させた。
(尾崎 公俊)
主要用途 専用住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
195.62u
建築面積
124.45u
延床面積
168.18u
設計者  株式会社
 エムエースタイル建築計画
施工者  桑煬嚼ン株式会社

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