上原の家

所在地 :愛知県豊田市
 計画地は豊田市郊外の「農」の風情の真っ只中に佇む東西に細長い小画地で、西側で僅かに接道し東に向けて開放的なヴューが大らかに保証されている。南面は緩やかに東へ下る大畑地で、遠く山並を望む北面は、将来の幹線計画道路に直面し住宅地化が予測されるが、今はのどかに畜舎などが点在している。
 そんな牧歌的風景の中にこの住宅はすっくと建っており、遠目には、全身黒づくめの精悍・スリムボディに、深くシャープな切妻屋根際の軒と破風の垂木などの木調細工が小気味よく響き合う。近づけば、壁の黒は木質感を残しつつグリーン系の隠し色を帯びており、1階平部の過半はすかっと南北に吹き抜けて風景と風や光を透過する。
 図面では律儀に1間モジュールを踏むコンパクトで端整な平面構成であるが、現地臨場ではヤングファミリーが闊達に生活を刻める自在な包容力を感じた。極小平面でも爽快に縦展開する内部階段や、2間間口の2階パブリック空間が少し絞った窓を介して東のパノラマ眺望テラスに大開放される連繋展開など、日常的なドラマ性が随所にさりげなく内在している。
 北側に直面する幹線計画道路とそれがもたらす周辺の急速な住宅集積化を念頭に、本計画では、将来も景観が望める2階に主たる生活空間を集め、1階は余白が繋がり透過性のある町並み形成の誘導モデルを標榜したという。近い将来、周辺の定住人口も増え子供たちも成長して、当家1階の内庭や縁側周りが愉快な日常交流の場になり地域コミュニティの輪が拡がる情景を想像する。
 応募資料での第一印象は、「大草原の小さな家」的な自然体の清々しさであった。現地審査で改めて、周辺環境の現状と近未来を真摯に見渡し咀嚼して、単純明快な形態・素材・平断面構成に結実した感を強くした。今後、ファミリーライフの変遷に応じて末永く磨き込まれることを期待します。
(鈴木 利明)
主要用途 専用住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
441.10u
建築面積
90.54u
延床面積
101.92u
設計者  佐々木勝敏建築設計事務所
施工者  有限会社 豊中建設

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