この住宅の何よりも大きな特徴は、建築と緑が混然一体となっているというところだと思われた。前面道路から見ると、樹林の中に大屋根が浮かんでいるかのような姿がオブジェ的で、モダンとプリミティブがミックスされたような超時空感のある外観となっている。手前の樹木の間に垣間見られる切り出したままの地元産花崗岩の巨石とその上に建てられた粗削りな太い掘立柱、民家のような骨太な架構材や露出した木組み、庭と建築の区別なく一体的に覆いつくしている天然スレートの屋根が相まって素朴さと力強さを感じさせ、大地の上で人間を守っている建築としての頼もしさを意識させてくれる。自然石を踏みしめながら進む大屋根下のアプローチは外でもあり内でもある中間的な領域になっている。その雰囲気は家のなかにまで持ち込まれており、室内にいても外部空間であるかのような交錯した感覚すら覚える。あたかも現代的に洗練された原始時代の住居のような不思議なテイストを発散する住まいである。
玄関戸を開くといきなり吹抜けの生活スペースに飛びこんでゆくプランは一見すると不意打ち的な印象だが、仕切りのない空間への欲求のほうが優先したのだろう。個室は東寄りのコアのような部分に集約されており南向きを意識していない。開口部はどこもピクチャーウィンドウ的に切り取られ、道路や隣地との視線を気にかけることなく奥深い森のような緑と木漏れ日を満喫できる。さらにそうした空間構成だけでなく、ドア枠を設けなかったり自然石や大黒柱に溝を掘り込んでサッシュレスでガラスを納めたりといったディテールにも細心の心配りが見られる。自宅なればこそのこだわりや割切りやチャレンジが会心の作となって結実したと言っても良いのではないかと思われる。
大胆な屋根のかけ方と開口部のとり方の巧みさは秀逸で、この住宅を魅力的にしている最大の要因だと思う。加えて素材やテクスチャーまた工法などに対するきめ細かい感覚も素晴らしいと思った。この建築づくりを共に支えてくれたに違いない建築施工者や外構施工者の美意識と力量にも賛辞を送りたい。
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