刈谷市歴史博物館所在地 :愛知県刈谷市逢妻町4−25−1 |
「ヒト」が主役のミュージアムというコンセプトのとおり、刈谷市歴史博物館は、居心地の良い、もてなし感のある空間である。 ランドスケープデザインによって導かれ、エントランスの重厚な扉がすっと開いて中に入り、少し暗いギャラリーを通って、次の扉が開く。すると、ほどよくランダムな木製のルーバー天井と煉瓦積みの壁が印象的な開放感のある多目的ひろばに迎えられ、ワイドなガラス面の向こうには庭園が…という導入である。そして、多目的ひろばを始点にシンプルな回遊性をもつ平面計画によって、次へと期待感を抱かせる様に驚きと発見のある展示が展開する。祭りひろば、歴史ひろば、企画展示室では各々のテーマの展示内容と空間がマッチしており、展示空間を繋ぐホールや階段、ギャラリーの空間スケールやリズムや光が変化するため、飽きることなく館内を巡る事ができ、また、「些細な日常の積層が歴史のうねりをつくる」というデザインテーマによって、限定したマテリアルを用いつつも組み合わせや工夫をこらしたディテールによって各部位が様々な表情を持ち、透かしや陰影を巧みに演出する光源をみせない照明デザイン、可変性のある家具やオリジナルサインに至るまで、すべてがなくてはならない要素が組み合って空間のシークエンスをつくりだしている。 一方、日常的な人々のアクティビティも配慮されており、多目的ひろばと一体となる研修室や、工作室のような体験学習室では、郷土を知るイベントや土器づくり等が企画され、気楽に開かれた場所となっている。保存、研究が大半を占める歴史博物館であるが、その活動を伝えることも重要な役割だ。リピーターを増やし、地域の公共空間として親しまれるように、様々な運営プログラムを実現可能とするように設えられている。これからの歴史博物館の在り方が示され、懐の深い、繊細な建築である。 |
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(加茂 紀和子) | ||||||||||||||||||||
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