金子コード株式会社 浜松工場 roseroc

所在地 :静岡県浜松市北区細江町中川80
 浜名湖北端部に位置する歴史ある工場敷地内の新設社員食堂兼社員ホールは、一見複雑な煉瓦タイル造形ながらメルヘン的佇まいの軽快な第一印象であった。工場内という閉鎖性や煉瓦マッスに大底辺三角開口という不均衡への若干の不安感はアクセス街路からの一望で忽ち霧消した。
 連続した1階分の長い直線壁が緩やかに屈折しながらスカイラインを変え、徐々に外を内に巻き込んで中央の正方形平面の大空間に高まる渦巻き状の造形は確かに、「roseroc」(=薔薇の岩)たる企業ロマンの直截的体現であった。この屈折自在・高低変幻の長大・単層連続壁の発想が実は、非常にシンプルな1枚の平行弦トラスと捉える明快な構造計画と見事にコラボして、無理なく安定した建築に結実したと聞く。となれば、1層分の斜材鉄骨の下部に大地に開く大きな三角形開口が自然にできて開放的な内外空間連携が生まれ、他方、複雑に立体交錯する鉄骨ジョイント実践に試行を重ねる施工者・鉄骨ファブの協働意識も極まる。
 工場敷地内で周辺借景や既存樹木に恵まれた好立地を踏襲強化して、「薔薇の岩」は緑のマウンドに包まれてロードサイドに開き、その「花弁」の隙に多彩な小庭を纏う。柔和な質感の横長煉瓦タイルに幅広の横目地で水平ラインを強調した連続壁面の経年汚れへの懸念は、供用後丸2年を経てなお変わらぬ清新さ維持を目の当たりにして一掃され、並々ならぬ施設愛の傾注が実感できた。
 訪問時はちょうどランチタイムにかかり、明るい日常の団欒シーンが垣間見えた。250人収容の15m正方の大ホール空間は十分な包容力と諸イベント対応性を付与され、付設各コーナーと併せて、設置テーマの「個性」と「団結」を育む多彩な社員交流の殿堂として羨望される。願わくは折々、社外公開されたミニコンサートや講演会等の地域交流イベント開催を誘発し、この豊かな建築環境がより広く発信されんことを…。
(鈴木 利明)
主要用途 社員食堂 社員ホール
構  造
鉄骨造
階  数 地上1階
敷地面積
18,226.60u
建築面積
450.13u
延床面積
444.17u
建築主  金子コード株式会社
設計者  奥野公章建築設計室 
施工者  中村建設株式会社

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