金沢の小さな三角屋根所在地 :石川県金沢市 |
機能合理性に基づいて必要な内的諸要素の集積によって規模や全体デザインが決められていくという近代主義的な手法は至極妥当なものだと思うが、環境や地域の風土文化との整合性を問い直す動きが起きてからは、建築が外的要因によって決められることもあり得る状況になった。 金沢の小さな住宅が建っている場所は、伝統的な街並みや自然豊かな環境と言うわけではなく、どこにでもあるような住宅地の中にある。近代原理的なスタンスで合法的に暮らしやすい住宅を設計することもできただろうと思うが、建築の存在の仕方が外的要因によって決められている。 法律による規制でもなく、街並みのルールがあるわけでもない。設計者の良心として、あえて自分自身だけのルールを設けたと言える。後から建てる者として、既に両隣に存在する住宅への採光や通風を尊重し、建築の最終的なボリュームを最初に決めた。やや過敏過剰な配慮と言えなくもないが、近隣と良好に付き合っていくというところからの着眼でもある。設計作業は決めたボリュームのなかに、家族が必要とする機能を封じることに転じた。しかし委縮することなく、むしろ精一杯の創造力を働かせることが設計の醍醐味となった。 設計者の自邸であることもポジティブ思考に輪をかけているのかもしれない。必要機能の取捨選択や必要面積のバランス調整では大いに苦心されたと思うが、自分たちの生活スタイルを見つめ直すきっかけにもなったであろうし、細かいところまでこだわりを持ってデザインを吟味するという行為自体を意外と楽しんでやっていたのではないかという感覚もしっかりと伝わってくる。 できあがった可愛らしいスケールのトンネル空間は洗練された都市型住宅スタイルで、何かを我慢したという雰囲気を感じさせず、若い世代らしいおしゃれ感覚に満ちている。狭小住宅にありがちなタイトに作り込み過ぎた印象もなく、将来にわたって清々しく暮らせる家であると思う。 |
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(関 邦則) | ||||||||||||||||||
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