13.神戸町の平屋

神戸町の平屋

所在地 :岐阜県安八郡
 50年程前、母校の当時助手であり恩師でもあったI氏(若くして他界された)の「建築は経験と思索でしか分からない。経験の何たるかを知りたければ、森有正の『遥かなノートル・ダム』を読め」との言葉が今でも耳に残っています。
 「空間」は概念とともにその善し悪しを語るのは、「正義」や「教育」と同様に難しいことです。建築文化は建築だけが語りうる自立した「空間」論があるはずですが、不勉強のうえ「空間」の造り方と何よりもそのイメージ化が不得意で、「空間」論として住宅を論評することは苦手の一言に尽きます。
 住宅から「空間」の在り方を取り去ると、まず「住む」という行為が基本にあり、次により快適に住む、つまり「住める」としての状態があり、そして人それぞれの「住みたい」との欲求が付加された、意匠を含めた形態があるのでしょう。ひょっとしたら、設計者の「住まわせる」という主客転倒した形態もあるかもしれませんが。
 当該作品の資料からの印象は、シンプルで開放的、それを可能にしている床・壁・天井の素材や色そしてその配置と造りの匠さ、それら建築要素の大胆にして繊細な構成の見事さでした。ただ、深い軒とはいえ鋼製建具の無さによる強い風雨への処理、北に向かって昇る片流れの屋根がつくる北側日照への配慮、貴重な冬の陽の確保など、「住める」ことへの不自然さと不自由さへの懸念は感じました。
 現地審査で、若い施主の口には出しませんでしたが、「住みたい」期待への満足感が十分に伝わり、私の「住める」への懸念は見事に消え失せました。遠近法を逆手にとった南へ広がる2つの壁と、北に向かって斜めに昇る天井とで作られたリビングには、確かに「空間」を感じました。私に時間があれば、若い施主達が無意識に「住み」続けるであろう数々の「空間」の中で、経験を糧に何を感じ取りそして「空間」が彼らからいかに自立してゆくのかを知りたくもなりました。
(車戸 愼夫)
主要用途 専用住宅
構  造
木造
階  数 地上1階
敷地面積
369.63u
建築面積
148.05u
延床面積
117.01u
設計者  武藤圭太郎建築設計事務所
施工者  誠和建設株式会社
 有限会社 リビングデザイン

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