竪の家所在地 :愛知県豊田市 |
窓や扉という家の記号を消し去った建築家の住まいの外観は、周辺環境とは異質な建ち方をした寡黙な黒い箱であったが、引き戸を明けて中にはいると、柔らかい光に満たされた、これまであまり経験した事のない細長いスケールの空間に迎えられた。 主屋と事務所としている移築民家との間の敷地にあてはめられた、幅4,000奥行き13,850の矩形平面を立ち上げたボリューム(気積)を、まるで魚の三枚おろしのように幅550の骨組みを挟んで、南北に幅1,550のボリュームに切り分けるという発想にまず驚く。4mの幅しかないのであれば、幅はそのままに、奥行きを分割して構成するのが普通なのであろうが、建築家のリアリティとしての人体寸法や振る舞いの分析図は幅1,550の有効性を示しており、実際も案外広いと感じるものだった。 この家はキッチン、ダイニング、ライブラリー、階段、水廻りなどの室名が組み合わされた北側の密実な空間の半身と、建築家が「光溜まり」と呼ぶ開放的な疎の空間の半身で構成されている。そして、背骨のような壁柱は、場の機能や集まる人数に左右されることなく910ピッチで連立しており、建築の自律性を保ちながら、区切り、行き来し、支え、寄り添うといった建築と人との関係をつくり、収納やパーティションとして機能する。 現地審査当日、小学生の女の子のところに、近所の友達が遊びにきていたが、どうやら1階の小さな空間(library)が日常のたまり場になっている様であった。その隣にはインターンが寝泊まりするゲストスペースも設けられている。使い方を固定せずに、いろいろな人をうけいれて、様々なことを可能としていているのは、身体スケールにあった居心地のいい空間が、大小、長短、開閉、明暗、巧みに組み立てられているからなのだと感じた。さらに、光と戯れ、季節を感じ、経年の変化を味わうといった遊び心が加えられている建築家の家は素晴らしく楽しいものだった。 |
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(加茂 紀和子) | ||||||||||||||||||
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