実相寺 毘沙門堂所在地 :静岡県静岡市清水区清水町12−19 |
西暦800年代に創建された古刹の境内に建つ、小さな毘沙門堂の改築である。この建築は、通夜を執り行うための御堂であると同時に、地域コミュニティの新たな芽吹きになりうる「生と死の祈りの場」として計画されている。 規模は小さいものであるが、隅々にまで神経がいきとどき、その設計密度は非常に高い。厳密に選択された材料の質感と、コントロールされた外光、燭台の灯、夜間の照明によって、仄かにたち現れる空間は、物理的には狭い空間であるにもかかわらず、広大無辺の空間に昇華されている。そのことによって、誰もが堂内に入った瞬間、自然と頭がさがり、手を合わせ、祈らずにはいられないような、空間の精神性が獲得されている。 平面形を見ると、仏教上、宇宙全体や世界の中心を意味する八角形の骨格を、四角形のボリュームの中に内包させる空間構成になっている。故人と自己が向かい合う強い中心性を持った八角形空間に対し、低く抑えた方形の屋根と四角い外形は、近隣環境との調和を意図していると同時に、余白の壁に囲われた残余空間には、機能的に必要な諸室が無理なく納まっている。抑制された静謐な空間は、建築家、家具作家、金物作家、造園家、そしてクライアントである宗教家との、緊密な協同作業によって実現されたものである。 仏教的な意味を纏った栗材の8本の八角柱、椅子、安置台、秘仏を納めた厨子、光を豊かに導く砂漆喰の天井と壁、金属の照明器具、扉の引き手、燭台、花入れ、既存の松を効果的に配した造園、自由に立ち入ることができる境内を柔らかく縁取るフェンスなど、それぞれ適切なスケールと材質、造形の確かさにより、品格のある宗教空間が実現している。 |
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(栗生 明) | ||||||||||||||||||||
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