静岡理工科大学
所在地 :静岡県袋井市豊沢2200−2 他 |
静岡理工科大学は、静岡県で初めて総合建築学科をたちあげた。「えんつりー」と名付けられたこの建築は、既存のキャンパス内に、新設された建築学科の校舎として計画されている。 既存の建築群の配置・構成や、ランドスケープが丁寧に読み取られ、軸線を活かす建物形状が生み出されつつ、キャンパスモールの中心軸に沿って「大きな軒下空間」が設けられている。この何層にもわたって立体化された軒下空間は、単調になりがちな校舎群のなかで、彫りの深い表情を持ち、人々を引き寄せる効果がある。加えて表層の透過性を高めることによって、建築内部は前面の中庭と一体化して見える。この建築は、学生や教職員が自由に集う場となり、さらには地域の人々をも誘引する場となる空間的役割を担っているからである。こうした空間構成は、「地域と連携し、地域に根ざし、地域に貢献する人材を育む大学」という大学創設理念を空間化したとも言える。 接合部に鋳物を用いることで、滑らかにつなぎあわされた樹状柱は、なだらかな山の稜線に囲まれた自然ゆたかなキャンパスの中で、自然樹林と呼応させた大学の魅力的アイコンとして機能している。(学長の名刺にもこの写真が刷り込まれていた。)さらに、「モノからはいる教育」という教育理念に呼応するように、この建築の内外は徹底して「モノ」のアッセンブリーによって成り立っている。つまり校舎そのものが「生きた教材」になっているのだ。構造、設備のエレメントの露出、床、壁、天井の素材、さらには照明、家具、什器にいたる多様さは、学生が実際の「モノ」に触れ、自ら体験し、そこから気づき、考え、発見し、一人ひとりが成長し、やがてきらりと輝く個性を創り出していくことが期待されているからである。 可能なかぎり間仕切りを廃し、視線が通りぬけることで、お互いの存在を確認できるがらんどうな空間は、様々な出会いや発見を生み出し想像力(創造力)を活性化させる。このことも、この地域で使われる方言「やらまいか」(いっしょにやってみよう)をとりいれた大学の基本理念「やらまいか精神と創造性」と合致したものになっている。 本年4月に初年度の学生を受け入れたばかりの校舎であるが、年度を重ね、学生、教職員、地域の人々の参加によって、より豊かな空間に成長することが期待される。まさに「やらまいかの建築」と呼べるものが実現している。 |
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(栗生 明) | ||||||||||||||||||||
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