クライアントの父が営んでいた鉄工所の工場をリノベーションすることでつくられた住宅である。階高の高い鉄骨造の既存工場の中に、構造的には独立した木造2階建ての住宅を入れ子状に挿入するという、きわめて明快な図式的構成である。シンプルな長方形平面の住宅の一部は、工場の南側の壁面を突き破るように飛び出し、この構成的特徴を周囲に対してもわかりやすく示している。
入れ子状の構成により生じる、既存工場の内部であり新しく挿入された住宅の外部であるところの中間領域は、楽しさに満ちた空間である。幅の狭い場所は路地やアプローチとなり、上階では新設されたトップライトに照らされたサービステラスや子どもの遊び場が広がる。やや広くなった場所は、大きな開口部で道に開いた屋内の庭となっている。既存工場の構造体やあちこちに置かれた機械や道具が、新しい住宅での生活の一部となり、様々な刺激を与えている様子が楽しい。同時に新しい家の存在が、古びた鉄工所の内部空間に生気を与えてもいる。
夏場の環境調整空間としての機能や、ダブルスキンに起因する採光不足などにはやや疑問も残るものの、既存の建物をほぼそのまま残しながら新しい建設をオーバーラップさせる手法により生み出された、新旧建物の相互干渉する空間には他の手法では得がたい魅力がある。また新旧の建物の重層した姿が、集落の風景に(ささやかではあるが通常の建替えでは決して得られない)時間的な深みを加えている点にも注目したい。このような改修の実現には技術的また制度的な困難も少なくない中、スクラップ&ビルドを克服する空間更新手法のモデルを具体的に示しえたものとして、高く評価したい。
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