海辺の丘

所在地 :静岡県御前崎市
 車から降り立って、前面道路から眺めたこの住宅の敷地は、作品のタイトル通り「海辺の丘」そのものであった。芝生で覆われたなだらかな登り斜面の丘の頂上には、横に長いベンチ状の板がのっているのが見えるだけである。
 頭上には広大な空が広がり、潮の香りを含んだ南西の風と、繰り返し聞こえてくる潮騒が、この丘の向こう側に御前崎の海、太平洋の存在を確信させてくれる。海への期待が高まりはするものの、この時点では、海も住宅も一切姿を見せていない。丘に登り頂上に立って息を呑んだ。180度の視界いっぱい、眼下に太平洋を見下ろすことができる。まさに雄大な海を独り占めしたような気分である。ベンチ状のものはもちろんこの海景を眺めながら時間を過ごすベンチなのだが、同時に、足元の丘に埋まっている住宅のトップライトでもあった。
 住宅へのアプローチは、丘の右隅に丘を切り裂く隧道のように作られている。石が敷きつめられた細い通路を下り、玄関の扉を開けると縦長に切り取られた海面が目に飛び込んでくる。そしてワンルーム空間と言ってよいのびのびとした室内の何処からも、様々に枠取られた海景を楽しめるように周到に計算されている。特にプライベート性の高い浴室や寝室からは、前庭に群生する樹林が適度に視界をさえぎり、海は遠くに退いて見える。
 まさにこの作品は、「風景としての海をいつ、何処から、どのように見せるか」といったテーマによって、ランドスケープと建築が一体となって組み立てられたものであった。
 そのテーマを貫徹させるため、それ以外は家具のように置かれた収納壁のように、極力シンプルでノイズを押さえた表現になっている。
 海に向うガラス引き戸を全面開放にして海を見ながら波の音を聴き、風に吹かれて座っていると、その快適さに時間を忘れる。近所の子供たちが丘の上で遊んでいる情景、住宅の内外で開かれる賑やかなパーティなどの情景が脳裏に浮かんできた。
(栗生  明)
主要用途 一戸建て専用住宅
構  造
鉄筋コンクリート造
階  数 地下1階
敷地面積
633.59u
建築面積
132.91u
延床面積
132.91u
設計者  株式会社
 エムエースタイル建築計画
施工者  株式会社 小澤工務店

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