所在地 :石川県金沢市尾山町9番13号 |
金沢城に対峙する閑静な地域に位置する、15m高度制限の地域である。物理的な高さはもとより全体を低く印象付ける工夫を凝らしている。3階部分の壁面を黒色で仕上げ、2階上部に位置する庇部分が強調されて、全体が水平に低い位置で心地よく広がっている。派手さのない落ち着いた外観は好感が持てる。 交流ロビーへ入ると開放的な空間が広がり、執務している職員も心なしかきびきびと軽快に見えるのは不思議である。訪れた当日は快晴でカラッとした天気であった。そのままの気候がこの交流ロビーでも感じられた。建物の背後から取り入れた外気を、地下駐車場の下に配した空洞を経由させ、床から吹き上げ循環させる省エネルギーに配慮した建築である。 交流ロビーの左手にある多目的ホールは、市内を流れる二つの川筋を天井の木製ルーバーにより表現している。川筋は天の川のように蛇行しているので、平面であるけれどうねりを感じる柔らかい天井となり木の使い方も美しい。異なる長さのルーバーの施工をはじめ、外壁の有機的な石材の組み合わせや深い庇を構成する鉄骨、建物いっぱいに広がった地下構造などの施工も難儀だったであろう。 交流ロビーに浮んだ、金箔合わせガラスの手摺の階段を2階へあがると、大会議室の照明が加賀藩のシンボルを静かに浮き上がらせている。和紙合わせガラスによるパーティションの研修室に入ると、ワーッと目に飛び込む光は柔らなのである。この建物には、エレベーターの天井の蒔絵など随所に伝統的工芸技術で施した要素が配置されているのだけれど、それぞれは控えめで奥ゆかしく静かに位置しているから気づかないのである。これらの伝統的工芸で構成された空間に身を置くと静謐とした心地よい感覚を享受できる。 会議室や研修室の稼働率は70%を超えており、市民に開かれた商工会議所会館でもある。地域と環境に根ざしている優れた建築作品である。 |
||||||||||||||||||||
(秦 正徳) | ||||||||||||||||||||
|
|