所在地 :石川県金沢市 |
新興住宅地に続く旧集落の一角にある。懐かしい農道を想起させる狭く緩やかにカーブした道に面した広い敷地である。周囲の家も広い敷地に建つ大きな家である。そこに位置するこの家は、周囲から目立つと言うよりも、むしろ目立たないで、周囲の家を引き立てている。既存の家との関係が乱れないよう隣家の位置を考慮して配置されている。 この旧集落近傍に残る吾妻建ちの家を意識したというが、農家の大きなかやぶき屋根を彷彿とさせる寄せ棟の大屋根が裾広がりにどっしりと存在している。シャープな線はいわゆる田舎臭くはなく懐古的でもない新しい存在感が素晴らしい。ここで生活することで誇りともいえる愛着が醸成される仕掛け、家族にとって家が本来持っていた象徴的な存在となるようだ。田舎家の雰囲気を保ちながら、新しい提案に挑んでいるといえよう。 玄関を入ると諸室をつなぐ廊下のような縁側に囲まれた土間となる。土間空間を諸室が取り巻く平面計画である。内と外とが入れ子のように連続しているので、隣人も気楽にではあるが節度を保って入って来るようだ。3世代の家族にとっては、吹き抜けの土間はパブリックのような場であるから、互いに距離を置いて振舞える空間でもある、と考えられる。土間を介在して人と人とが穏やかに交歓するということであろう。正月には親族や近隣の人を招いて餅つきをすることもあるらしくなかなか愉快な機能である。 内部空間は天井面や壁面による幾何的形態に構成さている。大屋根の内部に小さな屋根をかけているので面と面が交わる谷折れ線が多数存在する。とりわけ隅木のあたりは折り紙のように複雑に面が集まっている。これらの剛性面は構造を固める役割を果たし、構造計画の高い合理性が特筆される。多くの面はラワン合板で仕上げているが寝室は柔らかさを求めて桐合板を使用している、家具の様な内装である。精緻な木工事と相まって木質材料の使い方も新鮮である。 |
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(秦 正徳) | ||||||||||||||||||
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