所在地 :愛知県大府市 |
場所は閑静な丘陵の住宅街。奥に広がる旗竿地なので道からは門の草屋根がひっそり見える。
1.4mほどの高低差と地形に沿ったゾーニングで、門を潜ると床から土留め壁へと境なく積まれた石のアプローチが続く。雑木林の奥に見え隠れする建物を見上げ、土間に辿りつく。その時点で、住宅地の空気が一変して地面に抱かれる独特な空気が流れている。 深い軒の土間へ潜るように入ると、正面にオープンキッチンが見え、薄暗く落ち着いた土間は家族が集う場であった。見返ると、通ってきた軒下の空間から望む雑木林が輝いてみえる。屋根に沿った吹き抜けの土間の奥には2mも無い低い天井高の板間があり、白い壁と開口部とのバランスが絶妙な間を作っていてしばらく見入ってしまう。 板間の横の階段で半層上ると開放的な寛ぎの間があり、また段差ある間を登ると天に近づくように草屋根へとたどり着く。地形に沿ってゾーンが配置されそれぞれの空間のボリュームと視点が変わり住みながら色々な居場所があり、それぞれの場の変化を楽しめる。それでありながら、合理的な動線で、生活しやすい機能を備えており、生活の営むシーンがどこを切り取ってもバランス良く美しい。 建築家は土地探しから一緒して2年ほど費やしたが、この土地を見た時に水の処理、高低差、眺望などの問題点と解決策が同時に見え、閃くように軸が通ったと言う。この建物は、土地と住まい手・設計士の三位一体で生まれた。施工業者はクライアントと設計士の絆に応え、好感を持ってそれを叶えた。 退去した後も余韻に浸る空間は久しぶりである。建築家と住まい手と施工者との関係で作りあげた完成度の高い作品となっており中部建築賞の主旨にふさわしい建築である。 |
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(川口 亜稀子) | ||||||||||||||||||
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