所在地 :愛知県弥富市 |
「To every thing there is a season...(すべての事には時節があり…)」という、ザ・バーズの往年の名曲のタイトルを冠したこの住宅は、金魚池の点在する愛知県郊外の平坦な住宅地に、ゴロンと置かれたように立っている。 その空間の構成はきわめて図式的である。まず外殻として正方形平面をもつRC造のキューブがあり、その内側に同じくRC造のスロープが三層にわたり周回し、さらにその内側に正方形を田の字形に四分割した木造の居住空間が収められている。最下層にリビングスペースがあり、そこからスロープを螺旋状に登りながら階段状に配された各室をめぐり、最終的にルーフテラスへと抜ける。訪問前には、全ての動線をスロープにするのはやや図式に頼りすぎた乱暴な計画ではないかと危惧していたのであるが、実際には1/10勾配の緩やかなスロープがもたらすシームレスな空間の移動は平屋に近い感覚で、心理的にも身体的にも負担なく訪問者を最上層へと導くものであった。居室と外壁の中間に位置するスロープは縁側のような居室の延長としても機能し、居室空間に広がりを与えてもいる。その点から言えば、全体として開口部を絞った閉鎖的な構えであることは惜しまれる。最下層から屋上をつなぐスロープは、また温度差換気装置となることも企図されている。 構造的にはRC造が木造を包む混構造である。その狙いは、外側のRC造の壁とスロープが水平力を負担することで、内側の木造居室部の構造的自由度を高め、生活の変化に対応する改変を容易にすることにある。いわゆる「スケルトン&インフィル」の戸建て住宅における試みと評価できよう。スロープとの関係などを考えれば、実際の改変はそれほど簡単ではないと思われるものの、生活の変化に対応できず寿命を全うできない戸建て住宅が多い現状に対して、シンボリックな空間構成による一つの解答を示した、魅力的な住宅である。 |
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(柳沢 究) | ||||||||||||||||||
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