北アルプスの東麓のなだらかな田園地帯の中にぽつんとたたずむ端正な住宅である。夏場に訪れれば、都市生活者を魅了する伸びやかであまりにも美しい風景がひろがっている。この風景を如何に住宅内に取り込むか、またこの風景の中にどのように住宅を位置づけるかという、風景への応答がまず課題となる。また同時にこの地は冬場には3mの豪雪と強風、-15℃の酷寒に見舞われる厳しい環境でもあり、それゆえ家は何よりも厳しい自然環境から生活を守るシェルターでなければならない。
この地に生まれ育ち自然環境を熟知した設計者は、敷地形状に沿った三角錐のボリュームの鋭角部分を切り落とすというシンプルな形態操作によって、これらの課題に見事に応えている。この操作で生まれた台形平面に三本の稜線がかかる立体のシルエットは、どの方向から見ても風景に馴染む山なりの姿である。屋根と外壁は一体化し、冬の寒さ・風・積雪から生活を守るぶ厚いシェルターとなり、開口部は2つの切断面に集約される。この家形の巨大な開口部は風景を家の中に引き込む一方で、夜には家の中の営みを、雪夜の中のかまくらのように、風景の中に温かく浮かび上がらせている。
内部のプランニングの密度も高い。クロスカントリースキーやカヤックを楽しむ住み手のために、エントランスを兼ねた土間空間が南面して広く確保され、同時にそこは薪ストーブを囲む冬場のコミュニケーションスペースともなっている。ストーブの背後に蓄熱体となるコンクリート壁を設置したり、道具の手入れや薪の置き場、冬季の食品の保管にも配慮するなど、厳しい冬場の生活にきめ細やかに対応する意図が随所に見られた。巨大な開口部の納まりや仕上げ材の選択等には気になる点がないではないが、この地における雄大な風景/自然と人間の生活の関係性というテーマに対して、ひとつの明快なモデルを提示したものとして高く評価したい。 |