所在地 :愛知県名古屋市 |
覚王山と言えば、名古屋の代表的な住宅地の一つである。平坦地から丘陵地がちょうど始まる傾斜地に、その住宅のマンションは建っている。7階建の最上階の東端にある住戸だ。築後40年を経過し、72uでほぼ正方形のごくごく一般的な住戸である。これをたった2枚の間仕切り壁を導入することによって、劇的に空間構造を変えた。小さい子供を持つ若い家族が楽しく暮らせる住まいをうまく創出したリノベーションがここにある。 2枚の壁に挟まれた空間、言い換えれば「壁の表」は20uも満たない小空間であるが、リビング兼ダイニングとして、家族が集い、また来客に対応する。この小空間の他二辺を透過性のあるカーテンで仕切ることで、開放的な空間からやわらかな領域性のある空間に変化させることができる。 そして2枚の「壁の裏」には、一方は低いレベルのロフトを設けて、上部は子供部屋を、下部は収納空間として利用され、他方は水廻りや寝室が配されている。ここは、リビングを通らない裏動線にもなる。リビング等での暮らしを「ハレ」とするなら、ここは「ケ」の空間となる。そのメリハリは費用のメリハリでもあり、「見せる」前者はオーダー品を、「見えぬ」後者は既製品を使って、コストをコントロールすることが可能となる。 この設計では、子どもが小さいあいだの限定期間利用を想定しているため、個室はなく、ワンルームに近い間取りとなっている。子どもの成長とともに空間構造を変えていくことになるが、そのような将来性を見据えて、2枚壁は改修しやすく解体しやすい構造とし、また相場の賃貸マンションの家賃と同程度の支払い条件となるようローコストを意識した、現実性と将来性を見据えたものになっている。 この2枚壁は、暮らしの「ハレ」と「ケ」、現実性と将来性、最小限の仕掛けと最大限の暮らしの質といった対立的要素をうまくバランスさせ、家族同士の心の壁を取り払い、一体感をつくる。中古マンションのリノベーションの雛型になる取組み事例であると言えよう。 |
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(井澤 知旦) | ||||||||||||||||||||||||||
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